「春田蘭、自殺」
匿名希望
高3の6月、やはり今年も梅雨前線が接近してくるらしい
そんな中、親切高校のナインはあと一月を切った夏の大会に向け特訓していた。
特に3年生は最後の大会ということもあって必至に練習していた。
そんなある日のこと・・・
「ねぇでやんす。」
「どうしたんだい、荷田君」
「えっと、その、あの子が・・・」
そう言って指差す先には黒髪・・・というよりは紺色かもしれない。
その女子生徒がじっとグラウンドの方を、特に俺の方を見ている。
この女子生徒は高2の5月からグラウンドに姿を現し始めた。
最初は茶髪の子と一緒に来ていたがその子は乗り気ではなく、
遂に呆れられたのか、近頃は一人で来ている。
「・・・・・・気になるのか?」
「気になるでやんす。集中できないでやんす。そういうあんたはどうなんでやんすか?」
「・・・俺のほうを見ているのに気にならないはず無いだろ」
どうやら俺のことをあの女の子が気にしているようなのは馬鹿な俺でも分かることだった。
最初の頃、茶髪の女子生徒が隣にいるうちはまだ良かった。
しかし、あの女子生徒だけになってからはただ鬱陶しい存在となっていた。
しかもセンバツで優勝してから更にエスカレート、練習に身が入らなくなってしまった。
実際少しスランプ気味になっていたし、車坂監督に相談したこともあった。
それに荷田君が気にしているということはこれはもう俺だけの問題では無いと感じた。
俺は、決断が必要だと感じた。
「ケリを・・・・・・・・・つけてくるか」
「そうしたほうがいいでやんすね。」
遂に俺は重い腰を上げた。
「ねぇ、そこの君、ちょっと来てくれない。」
そう言って俺は部室の裏に呼び出した。
その女子生徒は嬉しそうに寄ってきた。
何故嬉しそうなのかを不思議に思いつつ俺はこう言った。
「君、ずっといるよね。練習の迷惑になっているからやめてくれない。」と。
しかし、この後、とんでもない言葉が返ってきた。
「王子様。」
「はぁ?」
「白球の王子様。」
「はぁ!?」
いくら馬鹿な俺とはいえども本当に意味不明な行動をとられたと思った。
そのまま唖然呆然立ちつくしていると、
「私は春田蘭。付き合ってください!」
(なんなんだ、この女は・・・)
想定を遥かに超えた言葉を発してくる彼女に俺はちんぷんかんぷんになっていた。
しかし俺はここで思った。ここで告白を拒否すればもう寄ってこないだろうと。
そう考えると、俺自身が妙に冷静になっていく。
(この女はあれだけ執着心の強い女だ。普通に断ってもまた湧いてくるだろう。
ここは完膚なきままに叩き潰しておこう。そうすれば夏の大会に集中できるだろう。)
俺は決意を込めた。
「絶対嫌なこった。」
「!?」
まずは拒否する。それにより拒否したことによるダメージを直接与える。
自分で言うのもなんだがよく考えたと思う。
さて、次は・・・・・・理由か。
「だって別に彼女がいるし・・・それに・・・」
本当にいるか否かは皆の想像に任せる。
この際嘘であろうと彼女は疑いもせず、衝撃を受けるだろう。
だがそれでいい。それでこそ計画通りなのだから。
とここで俺は次の打撃を叩き込む。
「俺はお前のことが大嫌いだから」
「!?」
相手はかなり動揺している。
そりゃそうだ。好きな相手に大嫌いと言い放たれて動揺しない奴などいない。
更に俺は追い打ちをかけていく。
「大体顔は不細工でまとわり付いてきて直接的で無くとも練習を妨害している・・・・・・そんな奴と付き合うと思っているのか?馬鹿馬鹿しい。」
俺は言い切ると同時にふと思った。
こやつは俺にさえこんなにまとわりついてくるんだ。
ならば次に好きになった他の人にも同じことをするだろう。
こんな苦しい思いをするのは俺だけにしておかねばならない、と思った。
「あと、しつこく追ってきたって鬱陶しい奴にしか思われないぜ?
しかもお前のやっていることはストーカー行為だ!
ストーカーって分かるか?犯罪だぜ?犯罪。俺でもそんなことは知ってる。
つまり、お前のやってることは犯罪ってことだよ!」
最後にして一番強烈かもしれない打撃を放った。
「うわああああああ」
彼女は泣きながらその場を去った。
俺は少し手厳しかったかなとは思ったが、我ながらによく言ったと
満足しながらグラウンドへ戻っていった。
・・・・・・・・・まさかあんなことになるとは知らずに・・・
翌日の早朝のことである。
「グルルルル」
ドーベルマンが警備員を呼ぶ。
「どうし・・・・・・!!!!こ、これは・・・・・・」
木にかけてある一本のロープ
傍に置いてある遺書のようなもの
そして・・・・・・
警備員はその光景に唖然とし立ち尽くすしかなかった。
朝から校舎全体はざわめいていた。
勿論何故かは俺は知らなかったが・・・
とりあえず越後を発見したので聞いてみることにした。
「よっ、越後。何で朝からこんな雰囲気になっているんだ?」
「ああ、誰かが自殺したらしいぜ」俺は素直に驚いた。
「ところで・・・お前自殺ってどういう意味か知ってるか?」
「ああ、全く分からないぜ」「分からないのかよ!」
「やれやれだぜ」「お前がだよ!」
という漫才をやっていると荷田君がやってきた。
「朝からコテコテの漫才をやっているでやんすね・・・」
「うるさいなぁ・・・。ところで荷田君誰が自殺したか分かる?」
「春田蘭という子らしいでやんす。自治会は隠しているでやんすけど・・・まあバレバレでやんすね。」
「春田蘭・・・・・・そうか・・・」
「どうかしたんでやんすか?」
「いや・・・・・・・・・なんでもない」
出来ればこのまま何事もなくやり過ごしたかった。
だが、そんな願いはある人物の接近により打ち砕かれる。
「あなた、ちょっと来て」
「え?あ、うん・・・」
呼び出された俺はその場を離れた。
その子は茶髪の女の子。蘭という女子生徒の隣にいた生徒だった。
「あなたのせいで蘭は・・・・・・!」
彼女は誰が見ても明らかなほど怒っているように見えた。
「待てよ。俺が何をしたっていうんだよ。」
あえて俺は俺自身が無関係なようにはぐらかす。
「何を・・・って!蘭の遺書に『王子様に酷く嫌われました。生きている価値が無くなったので死にます。』って書いてあったのよ!?
あなたはいったい蘭に何を言ったの!?」
はぐらしかたことはバレバレだった。
彼女の目が更に怒りを帯びる。
ここで罪を認めて謝罪することは確かにできるだろう。
しかしここで謝ってしまうと自分の非を認めることになる。
俺は確かに酷い振りかたをしたかもしれない・・・いや、したんだ。
だが失恋ぐらいで自らの命を絶つのは俺にとって非常に馬鹿馬鹿しいこと。
自殺したのは奴自身の問題であって俺とは関係無いことだ・・・・・・
俺は謝罪はせず、開き直ることを選択した。
「・・・・・・俺は蘭のことが大嫌いで迷惑なこと、そして蘭の行動がストーカーという犯罪だと言っただけだ。」
「言っただけ!?それであの子を・・・自殺に追い込んだのよ!?」
これで俺は引くに引けなくなった。
俺は悪役を演じ続けるしかない。
「ふっ・・・ははははは!!!」
「!?」
「失恋したから即自殺?面白い奴だな。まあ、そんな精神力じゃ現代社会で生きていけるはず無いけどな!」
「あなたに罪悪感は無いの!?」
「ざいあくかん・・・?俺、馬鹿だからよく意味が分からないなあ・・・」
「本当に呆れた!あなたは最低な男よ!!」
「ああ、最低で結構。」
「二度と顔も見たくないわ!」と言って彼女は去っていった。
「罪悪感・・・・・・・・・無いわけ・・・無いだろ!」
俺は下唇を噛んだ。