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「彼」

灰色の傘













大気を切り裂きながらも放たれた鉄の拳をは辛くも避けて懐に潜り込む。
鉄骨が剥き出しのロボットの咥内に銃口を突っ込むと彼は三度ほど引き金を引いた。
不気味な機械音と共に仰向けに倒れ始めた鉄塊にそれ以上の攻撃は加える事は無く、
背後から襲いかかってきたロボット犬に戦闘中に手に入れた鉄の棒を振り下ろす。
このタイプは機動力を主にしているだけに装甲はあまり使われていない。
手は痺れたがそこに確かな手応えを感じた。ロボット犬の首を変な方向に曲がっていた。
鉄の棒を手放す。銃に持ち替えて近付いてきた小さな円盤型の飛行機を撃ち落とした。
間髪入れず降り注いだ弾丸の雨を辛くも避ける。一旦は建物の影に隠れる事にした。

「―――――、――――――、――――――!!!」

未だ勝利を確信しているのか隠れもせずに傍聴不可の声で叫ぶ、エプロンを着た男。
男の指示だろう同じ型の飛行機が二機、銃を見せつけながら近付いてきた。
走りながらも片方を射撃、破壊。片方の飛行機も放った弾丸を避けると同時に破壊。
堕ちて来た円盤の片方を右手の人差し指と親指の間に挟むようにして強く掴むと、
俺に銃口を見せてきた、また別のロボットにそれを思いっきり投げつけてやる。
円盤は回転をしながらも赤い機体に激突。標準を外させ地面へと誤射させた。
生じた隙を突き一気に距離を詰めると、銃を奪い取ってその銃弾を喰らわせる。
新たに現れたロボット犬へと引き金を引いて胴体に穴を開けた後で、走り始めた。
姿勢を大胆に変化させながら蛇行。独特のステップを踏む事で被弾率を下げながら、
次々に襲いかかってくるロボット兵達を、一体、また一体と破壊していく。

「―――――!!!」

途中、形勢の不利を察知したのか逃げようとした男の右脚を撃ち抜き転ばせた。
その瞬間に襲いかかってきた拳が届くその前に肩を打ち抜いて大きくよろめかせる。
通り過ぎる際に先に戦ったロボット兵から奪った手榴弾を口の中へと突っ込んだ。
爆発による突風を背に感じながらも最後の一体となる赤色のロボット兵へと接近。
手に握っていた粗末な―――それでも十分に人を殺せる銃を蹴り飛ばした。
一瞬の隙を与えるつもりはない。銃口を硬い装甲の隙間に向けて弾丸を放つ。
それでも仕留めきれずロボット兵は腕を振るうが僅かに身を引いただけでそれを避け、
再び接近すると先程の攻撃で開いた装甲の隙間へと銃を差し込んで引き金を引いた。
視界の隅でエプロン姿の男が笑っているを見、力の限り後方へ跳び距離を取った。
刹那、赤いロボットは一瞬だけ全身を輝かせたかと思えば、爆発。
先程のように密着した状態であったなら爆風に巻き込まれ重傷を負っていただろう。
彼は安堵の溜息を吐いた後で、ロボット兵達に指示を出していた男へと近付く。

「嘘だろ………俺のロボット軍団が………」
「結構、手強かったがあとはお前一人だけだ」
「工場破壊用の戦力だったのに……くそ、こうなったら俺が!!」

男は渾身の力を振り絞って立ち上がると左拳で振り上げて殴ろうとする、が
ロボット兵に比べれば鈍重な拳は簡単に捌かれ足払いによって再び地面に這い蹲る。
躊躇わず、力が籠めて男の左腕を踏みつけると、その後頭部に銃を突きつける。

「無茶はよせ。あの数を操っていたという事はお前は戦闘向きじゃないんだろう。
………ところで工場とは一体何の事だ。前に捕まえた金井も同じ事を言っていたが」
「そんなもの、大神の地下工場に決まっているだろう」
「大神の?………どうやらじっくり話を聞かせてもらう必要がありそうだな」

冷たい銃口を男の後頭部に押し付けて無言の脅迫。だが男は「ふん」と鼻で笑った。

「お前にゃ無理だね!!!なぜなら―――――「どいてっ!!」

言い切る前に聞こえた同僚の声音に反射的に後ろへ大きく跳びその場を離れた。
直後に銃による鋭い音が響き渡る。男の脇腹と背中と腰から血飛沫が散ったのが見えた。
着地と同時に振り返ると、そこに自身のサポートを任されていたはずの白瀬がいた。
銃撃された男は聞くに堪えない悲鳴と共に、地面に伏してから動かなくなる。

「白瀬!?なぜ撃った!!」
「えっ?ごめんなさい!そいつの言動に危険を感じたから」
「くそ…………!」

無駄だと思いつつも男の脈を確認するが、やはり致命傷であったらしく反応が無い。
その時、胴体の下敷きになっていた右手が何かのスイッチを握っている事に気づいた。
先程の男の言葉から察するに、このスイッチは恐らく――――――

「こいつ、起爆装置らしきものを持っている。道連れに自爆するつもりだったのか?」
「あ〜、良かった。助けに来たつもりで、大チョンボと思ったじゃない」
「(………だが、ただのハッタリだった可能性もあるが………)」
「?どうしたの、深刻な顔して。さっさと応援を呼んで現場の調査をしてもらいましょ」
「あ、ああ。そうだな、それがいい」

返事を返したのと同時に白瀬は連絡用の携帯電話を取り出して本部へと報告する。
あと数分もすれば応援が到着し、この場の詳しい調査をして後片付けをするだろう。
男の言っていた「大神の工場」については今は頭の隅に置いておくことにして、
彼は銃を服に隠した後で斃れた男を眺めていた白瀬に疑問をぶつけてみた。

「というか白瀬。お前、いつからそこにいたんだ」
「最初から。見つけた時は何で喫茶店の店主なんかを尾行してるのかなって思ったけど」
「おいおい………それなら手を貸してくれてもよかったじゃないか」
「隙を見つけて男を取り押さえるつもりだったの。まぁ無事っぽいし、いいじゃない」
「いいじゃない、って。俺殺されかけたんだぞ」

笑顔を浮かべる相棒を一瞬見た後で、今度は疲労の溜息を吐きゆっくりと項垂れた。
それから数秒間、会話は打ち切られる。冷たい風と沈黙が二人の間を駆け抜けた。
今度のデートの話でもしようか。そう思ったその時「それにしても」と白瀬が先に口を開いた。

「よく一人で、それも拳銃一本だけで、こいつらを倒せたわね」

こいつらとは残骸として散らばっているロボット兵達の事を指しているのだろう。
全て旧型であるが、戦闘用に偵察型、中には大規模破壊用のロボットも混じっている。

「あぁ。正直最初はもう駄目かと思ったんだがな。人間、頑張れば何とかなるもんだ」

今更なんだが、よく倒せたよな、俺。最後にそう付け足して彼は乾いた笑みを浮かべる。
しかし尋ねて来た本人である白瀬は目を逸らしていて、何かを考えているかのようであった。

「…………?」

不思議に思ったが、それも一瞬。足音が聞こえそちらの方へと向けば、同僚達の姿が。
これでこの場は大丈夫だろう。後は彼らが資料を押収するなり情報操作なりしてくれる。
――――さっきの戦闘でもうクタクタなんだが、当事者だし、調査に参加しよう。
そう思い通り過ぎて行く同僚達に着いて行こうとしたところで、白瀬に止められた。

「ちょっと待った。あんたは調査に参加しなくていいから」
「いや、俺は当事者なんだぞ?詳しい調査の為には俺も必要だろ」
「疲れてるんでしょ?ここで何が起きたかはあたしが説明しておくから、あんたたは帰って休んでなさいよ」
「………分かったよ。じゃあ後は頼んだ」

調査したいという気持ちもあったが彼女の善意を無下にするのは悪いと思ったのだろう。
彼はそう言って背を向けると今の住居であるホッパーズ選手用の寮へと歩いて行った。


暗闇に溶け込んでいくその姿を見送った後で白瀬は再び視線をロボット達の残骸へと向ける。
今その眼に映る状況から敵の戦力を分析する、賢い狼のような双眸で見つめてる―――と、そこへ。

「………白瀬」

聞き慣れた声を聞きき彼女は脳内を戦闘用から日常用へと変換させ声の方へと振り向いた。
そこには彼女が所属する組織、CCRの上司―――というより実質のトップである、灰原がいた。
白瀬は恭しく礼をすると、それに何も返さず灰原はある程度近付いてきたところで足を止めた。

「あいつは何体のロボットを相手にした?」
「白兵戦用のロボットを14体、偵察用の小型飛行機が8機、自動操縦の軍事用ヘリを1機、大規模破壊用の巨大ロボットを1体。以上です」
「それに間違いはないな?」
「はい。彼は一人でその全てのロボットを破壊しました」
「…………」

灰原の視線が白瀬から逸れる。その先には彼によって破壊された大量のロボット達の残骸。
数秒の間だけそれらを見続けた後で灰原はポツリと、小さな声で呟くように言った。

「流石は、第4世代サイボーグ」

その言葉に白瀬は眉を顰めたが、それも一瞬。
それからは何も喋らず、横を通り過ぎていく灰原に着いて行くようにして白瀬も調査に乗り出した。
組織の実態どころか自分の正体にすらも気付いていない、恋人の姿を頭の片隅に置きながら。