夜
TT
降りしきる雨の音がいやに心地よい。
天井を見上げながら、ふと感じた。
時計を見ると、まだ2時を過ぎたばかり。
あと5時間は寝れるじゃないか___感謝の思いは今日の試合を帳消しにしてくれた空へと向けるべきか、
「・・・すー、すー・・・・・・」
隣で穏やかな旋律を奏でる、癒しをもたらす人へと向けるべきか。
(・・・馬鹿だな、おれ・・・)
浅はかな問いを投げかける自分に、思わず自嘲気味の笑みがこぼれた。
もっと近くに寄り、愛しき人の髪を優しく撫でる。
湿り気を若干残す肌、その香りに潜む事後の余韻が彼女への思いを加速させる。
自身の存在を何度も刻み込んだ、その柔らかな唇。
布団から少しはみ出すようにいる、美しく、か細い腕。
そんな彼女のひとつひとつは、すべて自分だけのもの。
下らない、と切って捨てられるような独占欲に、しかし確実に心を満たされている自分がいるのも事実なわけで。
まったく、情けない。
のどの渇きを癒すため、ベッドを後にする。
もちろん、その頬に印を与えるのは忘れない。
しかし、水を取り出した時、布団がはねのけられる音がした。
「ごめん、起こしちゃった?」
「・・・ううん、ちょっと眼が覚めただけ。私も、お水くれる?」
起きてすぐの、少しまどろんだような彼女も、また扇情的だった。
「こうしてると、あの頃思い出すね」
水を口に含み、二人してまた先程の余韻に浸っていると彼女が、ふと口を開けた。
「あの時は、星が綺麗だったな」
「ふふ・・・たしかに。それにね、あの時は、ほんとに大変だったなあって。
今になって思えてきた」
あの頃は、お互い眼に見えない暗闇の中で必死に光を求めて彷徨っていた。
・・・その手は、頑なに握り続けたまま。
「でも、そういうのを乗り越えて、今があるんだから・・・まあ、悪くないよね」
「おれに銃を向けてた頃より、ずいぶん変わったよなあ、おまえ」
「なによ、ちゃんと猶予与えたじゃない」
しかめっ面して、枕でぶってくる彼女を軽く諌めつつ。
「褒めてるんだよ。・・・綺麗になったなって」
「このあたしからおだてて、何か引き出そうなんてよく考えられるわね」
口ではそう言いつつ、少し頬を赤らめているのはバレバレである。
だから、その思いに乗じて・・・
「・・・んっ・・ふあっ・・・・・・」
いつもより優しく、そして少し激しく。
彼女を愛撫する。
「・・・分かった?おだてなんかじゃないって」
「ばか」
唇に笑みを携え、彼女は短く応え、体を寄せてくる。
そうして、また彼女の髪を撫でると、くすぐったそうに身をよじる。
「夜更かししてていいのー?明日試合でしょうに」
「チームが代わってから、日付が変わる前に寝た試しは無いぞ、おれ」
呆れた、と言わんばかりに彼女が盛大なため息をつく。
「ふう・・・そんなんでよく体が持つわね」
「その言葉、おれが言いたいって感じだな。お前だって大変だろ?
仕事とこっちの両方こなしてるようなもんだし・・・」
CCR絡みの事件が終わってしばらくは、彼女は全国各地でさまざまな粗相を起こしていたが、
ようやく身を引き、いまでは民間企業の管理職に就いている。しかし、多少「裏」のそれにも
関与しているらしく、見ている側としては気が気でならない。
もうひとつは、まあ平たく言えば「おれの身の回りのお世話」みたいなことである。
もちろん、彼女と会えるのは何事にも代え難いし、より本職にも集中できるが、彼女にはそれ相応の
負担がかかっているはずだから手放しで喜ぶわけにはいかない。
「自分の限界超えないように考えてますから、ご心配なく」
「・・・まあ、有り難いけど。でも、無茶はするなよ」
「りょーかい。その気になりゃ、いくらでも仕事はサボれるしね。あたしはむしろあんたの方が
心配です」
___いくらでも仕事はサボれるしね___いけないことだが、仕事よりも俺のことに重きを
置いてくれる彼女の優しさに、胸が一杯になる。
CCRという、忌々しい過去。
社会の残酷な一面を垣間見て、大切な人もなくした。
多くの犠牲が付きまとった、繰り返してはならぬ惨劇だ。
そしてその「闇」に、俺は吸い込まれていた。
それを救ったのが、彼女だった。
彼女なしでは、この光り輝く「今」を迎えることはできなかっただろう。
俺一人では、きっと何もできなかったに違いない。
でも、彼女がいたからこそ、俺はここまで頑張ることができたのだ。
「一人じゃあれだけど、二人ならなんとやら、ってね。
・・・一緒に、頑張りましょ?」
こうして自分に微笑みかけてくれる彼女を守ることが、俺の本当の使命なのかもしれない。
彼女のぬくもりを感じ、改めてそう思った。
「・・・ありがとう、芙喜子」
「・・・こちらこそ、夕貴」
愛する人の名を呼び、お互いの思いを再確認する。
夜は、更けてゆく。