Sponsored Link

















 

白瀬芙喜子の愉快な憂鬱

ニシキゴイ














 目覚ましよりも早く目が覚めた。白瀬芙喜子は時計を確認し、まだ早いと寝返りを打つ。でも自然と目が覚めたら以外に二度寝はできないものだ。白瀬はイライラと頭をかきむしり起き上がった。
 朝は嫌いだ。ただ単に夜が好きだということもあるが、これから起こる憂鬱を思うとムシャクシャしてしまうのだ。
 白瀬は大きなあくびをし、鏡で自分の頭を見るやすぐに洗面所に駆け込んでいった。






 

 30分後、彼女は職場――CCRへと向かっていた。冬の寒さが身にしみる。場所は裏路地のビルとビルとの間の道の奥だ。世間にわかりにくいだろうが、こちらだって十分わかりにくいのだ。目立たないようにということだが、こんな場所に人が入っていったらそれだけで目立ってしまう。指を指されてひそひそ言われたのも一度や二度ではない。ここでこめかみに血管を浮かばせるのが彼女の日課だ。
 
 そして――次はもっとタチが悪い。
 白瀬が道の突き当たりにたどり着く。そして、ギラリと目を光らせ、文章表現を超えた目と表情で辺りを見回しだした。睨まれたらグロイ状態にされそうだ。当然ながら両隣は壁である。完全なる挙動不審。
 誰もいないということを確かめると――――急にしゃがみ込んで頭を抱え悶えだした。俗に言うヤンキー座り――いや少し古いか。彼女の悶え方はまるで何かと戦っているようだ。病院?精神科は嫌なもんだよ。
 
 30分後、白瀬は顔を上げ、うつろな目でささやくように言った。



「…………ひぃらぁぅけごぉぅま(英語発音)」

 

プシューと間の抜けた音がし、白い煙とともに階段が現れた。
 白瀬はうつむき、肩をおとして階段を上っていった。化粧ではごまかせないくらい疲れが出ている。しわが出ないことを祈るばかりだ。
 朝は早い。まだ一日は始まったばかりだ。










「おはようございます………」

 ゾンビと形容するほうがいいような顔で白瀬が入ってきた。自分の机に荷物を投げ出し椅子に崩れ落ちる。

「おい白瀬。遅えぞ。何やってんだ」

 話しかけてきたのは彼女の同僚――新里 匠。少し離れてコタツに入り、悪戯好きのガキのような顔をしている。コタツの上にはもちろんみかん。みかんみかんみかんみかーん。古きよき日本の姿である。

「時間には間に合っているじゃない………」

「ふっ、おまえは甘い!時間には余裕をもって行動しろと小学校の先生が言っていたぞ!」

 白瀬はうなだれて首を振った。最近の新里とは馬が合わない。妹ができたと喜色満面の顔で言ってから人が変わってしまった。どんだけ年離れてるんだ………。無視して頭を抱えていると、今度は違う声が聞こえた。

「新里の言うとおりだ。お前も少しは見習え!」

「でも黒駒部長………新里は遅刻常習犯ですよ」

「ふっ、甘い甘い!」

 新里が会話に割り込んできた。コタツからは頭しか出ていない。なんかウザい。

「俺は学習した!遅刻をしないためには帰らなきゃいい!昨日はコタツと共に一夜を過ごしたぜ!」

 
 お〜っと効果は抜群だ!!(天の声)


「………任務に向かいます。部長、今日の任務は?」

 気づけば黒駒もコタツに入っていた。しかもみかんをむいてやがる。

「なんかあったけな〜〜。………あ、そうだ。駅前の喫茶店にサイボーグがでるかもだって」

「砂浜には埋蔵金が埋まってるらしいぞ。リンから聞いた」

 
 白瀬は椅子を倒して立ち上がる。出口を見据えて猛然とダッシュする。出口は少し反応が悪い自動ドア。


「あ〜白瀬が鼻血出してる〜。変なこと考えたのか?」

 
 文字どおりドアを蹴破った。ガラスに光が反射してキレイだ。









 
 照りつける日光のもと、白瀬は砂浜を掘っていた。
 喫茶店は空き家になっていた。話によると、夜逃げしたらしい。
 

 
 すっかり自慢の白い肌がこんがり焼けた頃、白瀬はあるものを掘り出した。
 とてもよい出来だった。一部の間では希少価値も高いだろう。ものすごく精巧に作られている。どこがと言われると、とても困る。日に照らしてはいけない場所としか。

 白瀬はニッコリと微笑んだ。そしてそのブツを海へと投げ入れた。そして叫んだ。


「バカヤローーーー!!!!」

「青春を返せーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」