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愛憎

灰色の傘
















黒い星の中で互いの死を誓い合う――――



 貴方と出会う前のころ。
 狼のように、あたしは生きてきた。
 群れの長の命令通り爪牙を振るい獲物を狩り
 安息など無い現実の日々を生きるか死ぬかと繰り返す。
 
 生き残るためにも優秀な狼である事を必要とし
 毎日を迎えられる資格のある者としての威厳を必要とし
 性別も血筋も関係のない強さを必要とした。
 
 だから修羅の世界に出た後でも己を磨く。
 おかげで周囲からは羨望の眼差しを向けられて
 上部からは信頼の証を頂戴した。
 
 あたしは優秀な狼としていられたのだ。
 全部の中でも一番に優れた狩人として。

 でも、だけど、貴方がこの世界に産まれていた。
 とてもじゃないが狼なんて呼べない落ちこぼれが。
 けれどもあたし達には無い何かを持つ存在が。
 
 あたしは二度、負けた。
 初めは出会った時に、次には本気の殺し合いで。
 心の底から、両脚の爪先から頭の天辺まで負けた。

 貴方の持つ《天才》というどうしようもない概念。 
 機械仕掛けの人形数十体でも太刀打ちできなかった存在。
 あたしの持つ《努力》より遥か上位に君臨する言葉。

 それに気づいた時には、あたしは貴方の前で跪いていた。
 犬のように息を荒げ全身を疲労で燃えたぎらせながら。
 代わって心は命の無い地面のように冷やしながら。

 もう殺されてもよかった。
 負けじと思っていた貴方に負けたのだから。
 心のどこかで憧れていた貴方の前で死ねるのだから。
 
 けれど甘い貴方はあたしを生かす。
 ほんの数秒前まで殺し合いをしていた敵を。

 その時あたしは何を思っていただろう?
 喜んでいた?怒っていた?後悔した?憂鬱だった?……答えは今も思い出せない。
 けれど誓ったことがあるのは、はっきりと覚えている。

 貴方があたしを殺せないなら
 あたしが貴方を殺しましょう。

 塵も積もれば山と成る。
 いくら貴方の才能があたし努力よりも上の存在だとしても
 あたしの経験策略全てを相手に出来るワケではない。

 だからもう一度、あたしは自分を鍛え直す。
 完璧ではない全てという全てを鍛え直す。
 戦い続ける貴方の敗北する瞬間を夢に見て。

 気付けば一日中、貴方のことを考えてる日もあったけれど
 燃える愛情と凍れる憎悪は表裏であり紙一重。
 あたしは貴方の無事を願い再び会える日を望みながら
 あたしは貴方の敗北を願い再び戦える日を望んでいる。

 灰色の街のその向こう、貴方の元へと参ります。
 
 裏切り者の始末という任務を果たす為に。
 あたしを生かした貴方を殺す為に。

 その時互いに銃を突きつけ合いましょう。
 狩られているのか狩っているのか。
 分からなくなるほど濃厚に。

 これが愛でも憎しみでも
 屍になってしまえば同じでしょう?


薔薇の中で眠る貴方に、手を添えましょう――――