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パワポケ8 ifルート

クロップ















「芳樹、出番だ!」
「ハイ!!」
観客席にまで聞こえるような声で、浅井芳樹(あさいよしき)は返事をした。
2対2の同点、8回裏2死1・2塁。
塁上にはチームでトップクラスの俊足、本田。
文字通り一打勝ち越しの場面である。
「っ!……よし!」
頬を思いっきり叩き、気合を入れ直す。
バットのグリップの感触を確かめる。
スパイクの紐を確認する。
高校から欠かさず行ってきた“儀式”だった。



ベンチを出る前、先輩から明るい声でヤジがとんだ。
「三振してこいっ!」
「俺のサヨナラホームランをつぶすなよ〜」
「中途半端なスイングしたら今日は外で寝ろよ!」
既に中継ぎとして一軍定着を果たしている湯田君にいたっては、
「今日はオイラの初勝利祝いで芳樹君のおごりでやんす!」
と言う。
芳樹は苦笑いをして、
「行ってきます!!」
とだけ、答えた。



『選手の交代をお知らせいたします。バッター湯田に代わりまして、浅井。バッターは浅井、背番号34』
本拠地であり、地元でもあるホッパーズスタジアムは揺れた。
甲子園で地元という看板を背負って戦い、初のベスト4まで進んだ立役者だったからである。
センスを見込んだスカウトと、年々観客動員数が減少しているホッパーズの首脳陣の思惑が一致し、三順目で指名され入団。
一、二年目は二軍でひたすら練習に明け暮れ、終わると寮のベットに倒れこんだ。
だが毎日上手くなっていくのが実感でき、芳樹はむしろ楽しささえ感じられた。
そして三年目となる今年、代打として晴れてプロ初出場となったわけである。



打席へ向かう途中ファンから声援が飛んだが、芳樹の耳には全く届いていなかった。
意識はもうマウンド上のエースに向いている。
相手もそれに気づいたのか、強烈に睨み返してきた。

左バッターボックスへ入る。
足場をならし、深呼吸を一回。
バットを構え、改めてエースを睨む。
セットポジションからの第一球はアウトローへ145`のストレート。
二球目は127`のカーブだった。
カウントは2-0。
インコースへのスライダー、芳樹はそれだけに神経を集中させていた。
相手の投手は今日の試合、この球で左打者から三振を5個奪っている。
だからといって必ずしも投げてくるわけではない。
ただ子供の頃から培ってきた“野球勘”がそう告げていた。

2-0から必ず決めに来る。一番自信をもっているスライダーで!――と。

投球動作に入る。
綺麗なフォームから放たれた球はインコースへと向かってきた。
昨日ビデオを見て作ったイメージでバットを出す。


「(振りぬけ!)」



カァン!――という渇いた打撃音がした。



打球は右中間を抜けていく。
歓声は最高潮へ。
一塁を回るとき、芳樹は思わず右手を突き上げていた。
しかし、すぐに引っ込める。
「(俺の仕事はこの回が終わるまでだ!)」
水木コーチが腕を回している。
二塁ベースを蹴り、さらに加速。



そして、スライディングに入ろうとしたとき、
「芳樹君!危ないでやんす!」






湯田君の声が、聞こえた気がした。







「…………う……ん」
芳樹は見慣れないベットの上で目を覚ました。
部屋は薄暗く、不気味な感じがした。
ガチャリ――突然ドアが開く。
「起きたか……」
「あんた……誰だ」
開いたドアの前に立っている男に、当然の疑問を投げかける。
男はフッと笑うと、もっと重要なことがあるんじゃないか、と言った。
「……そうだ、野球!試合はどうなった!?」
男は無言で――だだし口元を歪ませたまま――時計を指差す。
時間だけでなく、日にち、温度、湿度まで分かるものであった。
そして、それは“2009/05/24”と表示されていた。
呆然としている芳樹に男は説明を始める。
「4年前、お前は三塁へ向かう途中に送球されたボールが頭部に当たり、転倒。さらにベースの角へ頭から突っ込み、意識不明となった」
「そして、死んだ。だが我々が引き取り、脳の一部をサイボーグ化し、生き返らせた。つまり公には死んだことになっている」
芳樹の表情が呆然から愕然へ変わる。
その顔をみた男はこう付け加えた。
「オレはCCRの灰原。お前も今日からそのCCRの一員だ」
「…………へ?」