もう少しで三日目が終わる。
そう思うと大分気が楽になってくるのだった。この悪夢が残り二日で終わり、どんな形であれ日本に戻れるという事。
二人で帰ろう、と亜姫と約束したのだから、こんな場所で死ぬことは出来ない。
絶対に勝ち残ってみせる…。
「日数的に折り返しだな」
結構近い距離に居る二人でもそれぞれの顔が認識できない位の暗さ。
「そうだね…、もの凄く時間が長く感じるよ。後、二日も残ってるのかぁ…。皆、どうしてるんだろう」
表情を曇らせ、下を向く亜姫。
今の時代が時代だから、一通りの戦闘の訓練や実践で使える事も習った為、ある程度の知識は修めている終夜は、ホルダーからいくつか銃を取り出し、手入れを始める。
「どうだろうな…、もう数も少ない。後、俺達を含めて十チームだけだからな…」
自分でも、殺し合いという事に反論が無くなっていっている事は気付いている。そうでもしないと、自分が死ぬ運命を歩まなくてはいけなくなるからだ。それが、人間として忘れてはいけない事なのだろうが、それを忘れなければ、綺麗事だけでは生きてはいけない。そういう事を気付かせてくれたのは紛れも無く、殺し合いという戦場だった。
予備の弾を装填していく終夜を見ながら、一つ大きな溜息を付く。
「十八人だよね…」
「まぁ、単純にそうなるな…」
残り十八人を殺さないといけない。
瓦礫を盾にして座っている二人は沈黙する。ただ、聞こえるのは終夜のホルダーから弾同士が擦れる音だけ。
二人は気付いていなかった。
その瓦礫には死角があるという事を。そして、そこから終夜だけを狙っている者がいるという事を。
一瞬月光を弾いて何かが光った。
「つッ!」
首の辺りに鋭い痛みが奔った。
それが何かを知ろうと手を首に掛けるが、その時には視界が歪み、意識が朦朧としてきてそのまま倒れこんでしまった。
「終夜…?」
何が起こったか全く分からない亜姫は、倒れた終夜を見て目を大きくする。
「ちょっと!!終夜!!」
急いで終夜の方へと寄ってみるが、外傷は全く見られない。傷が無ければ、血も出ていない。それなのに、終夜が倒れてしまったのはなぜ?と思い、直ぐ様辺りを見渡す。
「…一人になっちまったなぁ、月臣亜姫ちゃん?」
背後から聞き覚えのある声。
声のする方へ視線を向けると、男が二人立っていた。
ジリジリ近づいてくる彼等に対し、その距離を縮めないように一歩ずつ後ろへと下がる。
「あなた達…」
ニタッと歯を見せて笑う二人を亜姫は知っていた。
いつの日にか強引な告白をしてから、しつこく言い寄ってきた奴らだった
「終夜に何をしたの…?」
亜姫の目はいつもよりも鋭くなっていた。
「終夜だってよ!名前で呼び捨てですかぁ?」
ケタケタと生理的に受け付けない笑い方をする。
「…もう一度聞く。終夜に何をしたの?」
「あぁ〜、コイツ?」
終夜の頭を靴の爪先でつつく。そして、持っている銃を終夜に向ける。もう一人の方は亜姫に見せ付けるように徐に懐から変わった銃を取り出した。
「これ?何だか分かる〜?」
目を細めている亜姫に向かって説明をする。
「麻酔銃っていうやつ。結構強力でさ〜、撃たれた奴って軽く二・三時間は起きないんだよね」
「だから、オレ達は簡単にキミを殺せちゃうわけ」
死ねない…。ホルダーから銃を取り出そうとするが、中は空だった。つい先刻、手入れの為に終夜に全て預けてしまったのだ。終夜との距離はかなりある。動いたら、即座に殺される。
「…でもね、簡単にキミを犯す事も出来るってわけ」
まるで、子供が欲しい玩具を見るように目を輝かせて言う。
「何言って…」
その言葉が上手く飲み込めない。
「オレ達も帰りたいからキミを殺すけど、その前にキミを犯すっていうオマケをつけるんだよ?」
この場から逃げたいが、逃げたら終夜が殺される。二つの事が頭の中を葛藤する。
「後、神煌への当て付けってとこかな?」
横たわっている終夜の腹に一撃蹴りを入れる。
「こいつさ〜、ムカつくんだよね。何だっけ?神煌corporationの御曹司だからって調子に乗ってるし…?キモイ〜!!」
「そうそう!!」
キモいのはお前達の方だ…。知った口を叩くな…。
銃を持った奴等に素手で行っても返り討ちにされるだけと、今までの経験で覚えた事で身動きが出来ない亜姫に、彼等は更に亜姫に追い討ちかけるように口を開く。
「じゃ!ヤろうか…亜姫ちゃん?」
腕を掴まれて、無理矢理口付けをさせられる。
驚きの余り、僅かに開けてしまった口から舌を入れられ、口内に他人の舌が入ってきた事に嫌悪する。
生理的な吐き気だけが身体を支配する…。
息切れからか、男が名残惜しそうに唇を離す。
男の胸板に手を付いて、押し離し距離をとろうとするが、女である亜姫が結構大柄である彼等を突き飛ばせる腕力なんて持っているはずは無い。
「放して!!」
自然と涙が零れてきた。
「放してって言われても、止められませ〜ン!」
「だから、黙って犯されてね?」
服を素手で引き裂かれ、脱がされて、半裸体になってしまった。
「ヤダ!!いやぁぁ!!」
ただ空しく、亜姫の声が暗い暗い積み重なった瓦礫の中に消えていくだけだった。
風が埃を舞い上げて、吹き抜けていく。
終夜が起きたのは、麻酔銃を撃たれて二時間後だった。
「痛って、何だったんだ?………亜姫?」
少し視界がぼやけるが、亜姫が居ない事はハッキリと分かった。麻酔がまだ切れていない為、思うように身体が動かない。
もどかしい感覚にイラつく。
しかし、ある光景で一気に目が覚めた。
「亜、姫…?」
亜姫は、殆ど一糸纏わずの状態で、身体中に白く濁った液体が付着していた。涙と男の体液と瓦礫の埃で汚れている亜姫だった。
「よぉ〜やく、お目覚めか?神煌よぉ〜?」
数メートル先の瓦礫に腰を下ろしている男の片方が銃口を向けながら、口に煙草を銜えておどけた口調で言う。
ふら付く身体を起こし、声のする方を見る。
「…亜姫に、何をした…?」
「何をしたか位分かってんだろぉ?天才神煌君…」
「クソだな…、お前等」
今の思考回路が繋がっていない頭で、思いつく限りの言葉を紡ぐ。頭に血が昇っていく。
「それは、お前も同じことだ。オレ達が犯してる間に片割れがお前の名前を叫んでいても、お前は微動だにしなかったじゃねーか!一人で寝てたよね〜?可愛そうな亜姫ちゃん…。それでも、オレ達の事をクソって言えますかぁ〜?」
言える立場じゃないのは、一番終夜が理解している。
「…そうだな、言える立場じゃないのは同じか…」
「ヒャハハハ!!とうとう、肯定しやがった!!俺達はなぁ、お前が憎くて憎くて堪らないんだよぉ。何でもすました顔で平然とこなしていくお前が大嫌いだった。だから、亜姫を犯したんだよ!!どうだぁ?オレ達と同じ風にされて、気分は良いですかぁ?」
そしてまた二人して笑い出す。
「ン…」
亜姫が目を覚まし、犯されて痛む身体を起こし、終夜を見る。
白い身体には所々青痣があり、殴られた痕跡になっていた。
「終夜…」
片方の男が亜姫の背後に回り、後ろから胸に手を這わす。
「や、め…」
「ん?感じてるくせに、素直になりなよ?」
「止めろッ!!」
足のホルダーに手を掛けようとする。
「おぉっと!そこから動くなよ?もし、動けばお前の心臓から血が出ちゃうぞぉ?」
銃口をもう一度見せ付ける。それで、やっと冷静さを取り戻すことが出来た。
「お前を殺すのにそう何発もいらねーよなぁ」
終夜は動けなくなってしまった。防弾ベストはジャージの下に着てはいるが、もし心臓じゃなくて、頭を銃弾が抜ければ終わってしまう。片方が死ねば片方も死ぬ運命だ。
目の前で犯される亜姫を助ける事も出来ない自分が、どうしようも無く憎かった。その歯痒さから噛んだ唇は切れ、握った拳は震えていた。
「終…」
自分の名前が耳に入るたび、身の裂かれる思いが自分の中の何かを駆り立てていった。
「ほ〜ら、亜姫ちゃんがお前の事を呼んでんぞ?早く助けてやれよ!…まぁ、助ければお前が死んじまうけどな!!」
必死に喘ぐ声を抑えて、こっちを見る亜姫。
助けようとするが何も出来ない終夜。
「あのさ!もう挿れていい?」
「どうぞご勝手に…。あ〜あ、また挿れられちゃうね、亜姫ちゃん」
泣き叫び、終夜と呼ぶ亜姫の声で、終夜の何かが切れた。
静かに、亜姫の方へと歩み寄る。
「…あっそう、じゃ死んでよ」
一発終夜の心臓に向かって発砲した。
「終夜ッ!!」
しかし、終夜の身体からは血は出てくるはずが無い。
「何?!!」
弾は一発しかなく、何度も何度もトリガーを引くが空の銃からは何も出てこない。
「死ねよ、お前…」
男の前に立った終夜は、顔面にパンチを入れる。顔面の骨が折れ、見るも無残な形相と変わり果てた。
呻いている男を見下し、拳に付いた血を拭って、亜姫を掴んでいる男の方を見る。
「汚い手でいつまで亜姫に触ってるつもりだ…?」
身動きが出来ない男は、ただ慌てるだけで、殺されるという実感を終夜が近づいてくる度に感じ取っていた。
やっとの思いで手に取った銃を終夜に向かって何発も発砲する。その内の一発が終夜の左肩を貫通した。
「終夜!!」
男を押し退けようとするが、男は亜姫を盾にしようとがっちり掴んでいる。
「…それだけ、か?」
肩からは血が溢れ出すが、終夜は顔色一つ変えていない。
「ば、化け物…」
全て弾を出してしまった男は亜姫を放して逃げようとするが、瓦礫で足場が不安定な為、中々前に進めない。
「クソなのは、お前等の方だろう…?」
数メートル飛んで、そのまま逃げようとする男の足元に一旦手を付き、首に回し蹴りを入れる。その男の首は地面へと落ちていった。
その返り血を浴びてしまった終夜は、髪も服も何もかも真っ赤に染まっていた。
月光を背負っているため、全体が黒く見える。
その中で、異様に瞳が銀色に光っていた。