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First Love

第七話 裏



 今回行われてしまった『バトル・ロワイヤル』と呼ぶに相応しいものは、日本帝国政府の最高権力者達が首相を交えて企画を立てたのだった。国民には状況を伝えず、帝国の中枢を握る者しか知らない。極秘会議という形で隠蔽し、確実に準備を進めていった。
実施日になった十月十日は、日本帝国国民にとって絶対に忘れられることの無い日になった。両親側は最愛の子供を手放し、放さなかった者はただの肉の塊と変わる。子供側は親に捨てられたという信じがたい現実に、強制的に友や仲間を殺さなくてはいけない状況下に投げ出された。
 その中で生き残った子供は政府側の忠実な犬となる。第七次世界恐慌大戦に参加している世界全てに、日本帝国はアピールを行う。余裕過ぎて子供が余りすぎている、と。だから、お前達がどんなに足掻いても日本帝国には敵わない。そういう事を生き残った犬達に言わせ、最後に立て付く前にその命を奪う。
 それが何処まで益になるものなのか分からないが、今回最大の帝国側の求めたものだった。
 戦争が始まって二年が経つ。始まった当時は、核兵器等を使って本格的に国々を潰そうとしていた国があったが、今となっては無い。どこの国も戦争を続ける資金や人事が足りなくなっている。そのチャンスを政府側は見逃すわけも無いのだ。ハイエナのように何処までも抜け目が無い。絶対に勝つつもりでいる。将来を担う子供を殺し、これからの土台を危うくしても、その勝利にはそれを補う程の見返りが返ってくるのだろう。
 しかし、政府側には一つ盲点がある。
 その情報が、一部に流れている事を。
 裏が分かった今、こちら側にとっては好機だった。
 あの血は、極度まで感情・思考が追い詰められない限り開放はされないのだ。彼らにその場を与えてくれた事にただ感謝するしかない。その事で、自分達の国が少しずつ滅んでいくのだ。覚醒した彼等はもう誰にも止められなくなる。政府側にも、軍隊にも、世界各国にも。指を銜えて自分達が築き上げた国の崩壊を高い席から眺めていればいい。泣き叫ぶのは誰になることやら…。
 モニターに映った醜く歪んだ男達の顔が今以上に崩れていくことを考えると身震いがする。
「…どうした?」
 ドアの向こう側の気配に気付く。
「報告があります」
「入りなさい」
 彼が入室を許可すると、書類を持った女性が入ってくる。頭の上部で色素の薄い髪を結い上げ、凛とした顔立ちは誰が見ても美しいとしか言いようが無い外見を持っている。
「失礼致します、こちらが今回行った調査の結果です。どうぞ近日中に目を通して置いて下さい」
 持っていた書類を机の上へと置く。
「これは、また多いな…。なるべく早く読んでおくよ」
 その紙を数枚手に取り、軽く読む。
「お願い致します。それと、例の五人の覚醒が確認されました」
「…やっぱり、五人か」
 顎に手を掛ける。
「はい、今回のではまだそこまで達さなかったようです。いかが致しましょうか?」
「計算通りだ、このまま話を進めておけ。それと、BBRの上位五人を集めておけ」
「了解しました」
「後は…、引き取りの際の準備は?」
 口角を吊り上げる。
「勿論、抜かり無く」
 そうか、と呟く。その時、彼女の携帯が鳴り、それを取り出す。
「…出ても?」
「どうぞ」
 彼女が携帯越しの相手と話している時に彼は深く椅子に腰を掛ける。
 大きな欠伸を一つする。最近、寝ていないからか身体がだるく、頭がボーっとする。少しウトウトし始めた彼の頭を無理矢理叩き起こしたのは彼女の大声だった。
「何やってるのッ?!!室長は?!!」
 急な大声に不意打ちを食らい、椅子から飛び上がった彼を見て彼女はいかにもバツの悪そうな顔をし、直ぐさま謝罪の一礼をする。
「………今からそっちに行くわ…、それまでに室長を呼んでおきなさい」
 眉間に皴を寄せている彼女は憤りを感じていた。携帯を耳から離し、電源を切る。
「お前がそんな大声出すなんて珍しいな…」
「申し訳御座いません…」
「疲れてんじゃないのか?それで、怒鳴った理由は?」
「例の位置を示したデータを失ってしまったようで…」
「おいおい、そりゃ困るな…。管理してんのは?」
 彼は立ち上がり、頭を掻く。
「南第一調査管理室です」
「そうか…、早く行きなさい。後頼んだぞ」
「はい。では失礼します」
 踵を返し、部屋から出て行った。
 現在この部屋に居るのは彼一人。
 静寂が部屋を満たしていく。
「さて…、どうしたものか」
 困ったような言葉を出した彼の表情は、その言葉の反対の笑みを浮かべていた。



 全国の高等学校一年生の殺し合いは終わりを告げた。
 生き残った数は千二百六十七人。次の五日間は二年生になるはずだ。
 十五年間待ちわびた今日この日。
 これでやっと駒が揃った。後は、覚醒後の仕上げだけだった。
「あ〜!!クソッ!!めんど〜!!」
 黒いスーツを着崩し、ネクタイを片手で解く。
 広々とした白い空間の廊下を五人が歩いていく。その向かう先は社長室だった。
「煩いぞ、仁。少しは黙れ」
 仁と呼ばれる男は、その言葉に反論する。
「あ?葵、テメー喧嘩売ってんのか?」
「…馬鹿に付き合っている暇は持ち合わせていない」
 あっけらかんと話す葵に腹が立つ。
「…一々ムカつく野郎だ…、なぁッ!!」
 握った拳は葵の顔面へと向かった。
 しかし、その拳は顔面に届く前に葵の腰に携えられている日本刀によってその軌道は遮られた。
「ムカつくのはどっちだっていうんだ…。抜刀させやがってよ」
 刀に加えられる仁の力はかなり重く、葵の片手だけでは耐え切れなくなった。しかし、葵にもプライドというものがある。易々と力負けして仁に何か言われるのが嫌だった為、刀に込めた力を一瞬で抜き、拳をかわす。前のめりになりそうになった仁は、何とかその場に踏み止まった。
「避けるなんてズルくないか?」
「押し続けても無意味なんだよ…、戦闘の基礎基本だぜ?」
「………あ〜!お前、俺の力に敵わないと思って逃げたな?」
 葵は大きく溜息をつき、やれやれといった感じで首を横に振る。
「力じゃ俺に勝ち目は無いからな…。まぁ、その代わり頭を使うんでな?」
 葵の表情は、力馬鹿を下に見下すといった感じだった。
「ぶっ殺されたいのか…?」
「逆に殺してやるよ…」
 その二人の会話に後ろを歩いていた三人は呆れていた。その中の一人は溜息を付いた。
「翆未〜、アレ止めて?」
「私が?…しょうがないか」
 こんな場所で戦われたら、そこら中が崩れていってしまう。それだけは、何としてでも回避しないと。
 独自の戦闘態勢に入った二人。
「泣いて詫びるなら今の内だぜぇ〜?」
「お前が、だろ?」
 その気になってしまった二人を止める事は出来ない。
 二人は飛び掛り、仁は身体を反転させ顎目掛けて蹴りを入れようとし、葵は受け流しの構えを取る。足と刀が交わろうとした時。
「その辺にしといたらどうだ…」
 金縛りにあったかのように両者とも身動き一つ出来なくなり、そのまま下へ叩きつけられる。
「チッ…」
「翠未…、テメー」
 ギリッと唇を噛む。
「ここが壊れるだろ?そんなに戦いたいのなら場所を考えろ」
 彼女の瞳が銀色に染まっていき、その圧力がまた一段重くなる。上からの重力というより、全体を押し潰すような圧力だ。
「それ位で勘弁してやりな?」
 止めに入る啓太。そうでもしないと、彼女は彼等を本当に押し潰すだろう。
「…だな」
 彼女の意思でその圧力は一瞬にして消え去った。
 翆未は倒れた二人を上から見下ろす。
「…一応、開放はしておいたのか?」
 二人は肩で荒く呼吸をしている。二人の瞳も銀に光っている。
「クソ…。お前…俺等を殺す気か………」
「さぁな。さっさと行くぞ、ボスが待ってる。茜、啓太…二人を支えて」
「ハイな!ほら、お兄ちゃん…」
 茜は葵に手を貸し、啓太は仁の懐に入って腕を肩に乗せ支える。
「仁〜、また重ーなったか?」
「知らん、体重なんか量んないからな」
「しっかり自己管理せぇ〜よ?風邪引いても知らんぞぉ〜!」
 一拍置いて仁が口を開く。
「…お前が弱くなったんだろ?」
「ヒド!!」
「静かにしろ…」
 ようやく社長室に辿り着いた五人。
 ドアの横に設置してある瞳孔センサーに瞳を近づけ、血液採取機に左手の親指を入れる。
「ご確認しました、水無月翆未様」
 機械音の後にドアが開く。
「ただいま戻りました」
 出迎えるのはその部屋の中に居る社長と呼ばれる男だ。
「お帰り。………やっぱり、な。翆未、お前一回ここで開放しただろ」
 後ろにいる仁と葵の疲れきった顔を見て、ついさっき感じた圧の確信をした。
「申し訳御座いません」
「いや、別にいいぞ?この二人直ぐにおっぱじめるからな」
 その言葉にむくれ、それぞれ逆の方向へそっぽを向く二人。
「次の任務は?」
「任務っていうか、キミ達には身体を張った仕事をしてもらう」
「と、言うと…」
「明日にでも、彼等がここに着くだろう」
「とうとうですか…。覚醒は?」
「勿論、してある。が、一人だけまだだ。その子については私が引き受ける。その他の五人はお前達で頼む」
「了解」
「彼等は適合者だ。試験的に入れられたお前達を簡単に凌ぐ潜在能力を秘めている。その能力の引き出すきっかけをお前達には作ってもらう。後、戦闘の基礎なんかも宜しく。それぞれのデータは自室に送っておく。…血反吐を吐く事になるかと思うが頑張ってくれ」
「ご期待に答えられるよう努めます。では…」
「あぁ、お疲れ。今日はゆっくり休みなさい」
 一礼し、部屋を後にする。
 部屋を出るなり、口を開く仁。
「ガキのお相手ですか…。本ッ当に面倒だな」
「仕方ないやろ?元々、俺等は適合者じゃないんやし…。もう、身体にもガタがきはじめておるし。俺等が死んだ後の事まで考えへんとなぁ」
 掌を見る。手首までだった痣も掌まで侵食し始めてきている。それが暗示するのは、投与された血が合わない身体を無理に合わせるように作り変えて、蝕んでいる事だ。力を開放すればするほど侵食は早くなっていく。全て飲み込まれれば自我を失うだろう。自我を失えばその力は暴走し出す。その前に自分でこの命を絶つ。
 少しの時間、全員掌を見ていた。
「BBRの各隊長として私達は五年間生きてきた。最初に余命宣告された時は随分長い時間だと思っていたが、今となれば短いものだ。…この任務が終われば私達は間違い無く死ぬだろう。それぞれもう限界が近いだろ?これからの事をよく考えてみろ。この仕事は強制では無いから降りる事も出来るぞ…。こんな仕事、私一人で充分だ…」
 今から血を抑えて生きていけば、人並みの人生は送れるだろう。そう考えた翆未は、かけがえの無い仲間を簡単に死なすのが嫌だった為、降りてくれるように促す。
「………元は捨てられ、ここに拾われた身だ。何があろうと俺はここに従い、命が望まれるのなら、俺は喜んでこの命を捨てる…」
 葵の口から出たのは翆未の考えている事の反対の一番望んではいない言葉だった。
「翆未〜、そんな寂しい事言わんといてーな?俺等仲間やんけ、歩む道全て一緒や」
「血を入れられた時に覚悟は決めている。今更それを変える馬鹿もいないだろ?」
「皆、一緒だよ?」
 物事全部に納得したような顔をする。
「いいのか?…これに乗れば後戻り出来なくなるぞ?」
「分かってるよ。けど、アタシはこれを降りてまで生きたいとは思わない。アタシ達、多くの人達を殺してきたでしょ?…それ全て忘れて、この力全部隠して普通の人として生きられる程、心は強くないよ…」
 茜は自分の胸を指差す。
「生と死の境界線をずっと歩いてきたからな。死ぬ運命ならそれに身を委ねるだけだ」
 腕を組み、壁に寄り掛かりながら話す葵。
「だから、そんなに一人で抱え込むこと無いんよ?今まで、ずっと一人で頑張ってきたやろ、お前さん」
 翆未を気遣う言葉をかける啓太。
「そうだ、たまには俺達にも頼れ」
 仁の言葉は何処か不器用で優しかった。
 それ全て、いつも孤高で前線の一歩先を歩み戦ってきた翆未に宛てられた一つの愛だった。
 戦う事で自分の存在を表していた自分にとって、特別『死』の恐怖は無かった。戦って死ねるのなら、組織の為に死ねるのなら、それは本望だったから。
「馬鹿が…、死に急ごうとするな」
 自分達の限界は間違える事は出来ない。だから、目の前に迫る死から、どうにかして仲間達を引き離そうとした。が、彼等はそれに応えてはくれなかった。
「最後の仕事なんだから、張り切っていきましょっ!!」
「そうそう。難しい事なんて考えても意味ないから〜、来る時が来ればそうなるんやしー」
 能天気な二人。でも、それぞれの胸の中では死という現実をしっかり受け止めている。
「俺は、何があっても降りないからな?じゃ、お休み〜」
 大きな欠伸を手で覆い隠し、自室へと入っていく仁。
「また明日!何かあったら呼んでよね」
「そういう事だ、総隊長殿…」
「ゆっく〜り、休んでーな」
 各自、自分の部屋へと入っていく。
 その場に残り、力無く壁に寄り掛かる。一人残ったこの場所は少し寒かった。
 少しずつ終焉へと向かい始めている。その土台造りとして生きてきた五年間。仲間がいたからこそ、ここまで頑張ってこられた。それがもう終わる。いや、終わりにしなくてはいけない。私達が限界点を見誤り、完全覚醒でもすれば、適合者といえども何も訓練も受けていない彼等が自我を失い暴走し出した私達と戦って勝てるはずが無い。だから、限界が来たのなら自分で最期にしなくてはならないのだ。
 自室へと入った翆未は、上着の下に付けていた武器や防具を全て外してく。身に付けているのはアンダーだけになり、自分の姿を鏡に映す。あの五人の中で一番血による侵食の進みが速い。
「後二、三回開放すれば…終わりだな」
 彼等の頬には特殊な刺青が彫られている。その刺青は紺碧の色をしているが、血の解放をし、限界が近づくに連れてそれは赤に染まっていくのだ。今の彼女の刺青は殆ど赤に近い色をしている。体中の痣も以前より面積を増やしている。
 五人の中で突出した能力を持つ翆未は、誰よりも血のコントロールが難しいのだった。強い分だけそれに担う代価がある。幾度とある恐悦感など、他の奴等とは明らかに違う点がいくつもある。ここ最近になって、身体が思うように動かなくなり始めている。それも、死が直ぐそこまで来ている証拠だ。
「まだだ…、まだ」
 最後の仕事が残っている。それが終わるまでこの身体はまだ私の物なのだろうか。それとも、私が飲み込まれるのか。
 脱ぎ捨てた上着の下にある刀を手に取る。鞘から刃を取り出し、その刃で下から上へと縦に左肩を斬る。
「ッ!」
 深さ三センチといったところだった。肩からは鮮血が溢れ出していく。大理石の床は落ちてくる血を吸い込まない為、下に血溜まりが出来ていく。
「…っく、戻るか…?」
 斬った部分が熱く爛れるような感じがする左肩を見る。普通ならあり得ない事が彼女の肩に起きていた。
 肩に入った傷がどんどん塞がっていく。斬った後五分で全て元通りになってしまった。
 しかし、その異常な事は彼女にとっては当たり前だった。むしろ、修復で五分も掛かってしまった事が彼女を落胆させた。
「チッ、修復にこんなに時間が掛かるとは…」
 力を開放せずに身体の修復をする場合、通常なら一分で傷は無くなる。しかし、五分も掛かってしまうとなると、それは血が身体の中の細胞を勝手に作り変え、完全覚醒の準備を進めている事を示している。血が、身体を動かしている彼女の意思に反発している為に起こる現象だった。
 額には脂汗。刀を持ったまま、ベッドに倒れこむ。カランと小さく刀が床に落ちる音が耳に届いた。その後、彼女は意識を手放した。



紅き黒き時の裏
誰も知ることの無い時の裏には
涙と血が溢れている
一筋の涙が零れれば
そこには憎悪が生まれる
一滴の血が地に落ちれば
そこは戦場と化す
それが道理で摂理
いつの間にか当たり前になった事
人間は醜く浅はかな知恵しか持たないちっぽけな存在
それを証明しているのは紛れも無い人間自身
自分で自分の首を絞めている
そんな事にも気付かない人間共で造られた
時の裏の殺し合い

理を覆し
理を唱えるは
黒の使者
時の裏を制するのは彼等
闇の終わりを告げ
人類の為に命まで投げ出した
今を生きる人間達よ
生がある者達よ
その命全て
お前達のモノでは無い

選ばれたのは六人の者
彼等の手で切り開かれていく道は光か闇か
運命の賽は投げられた
光に付くか闇に付くか
受け取る答えは様々になる
強く儚く散って行った六人
その最期に華を散らせるのは
我の役目

一つの愛を捧げて


First love