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その男には、光り輝く未来がなかった。鏡のような「自分」と出会い、苦境の後に全てを失い、自暴自棄にさえなっていた。その男が出会った青年との物語は果たして偶然かはたまた運命か・・・。

これは、交錯する三つの魂と、そのそれぞれの運命の物語。


 

一球

夕闇の詩人





五月和雄は、4年前ドラフト3位でドリルモグラーズに入団した。

高校時代は甲子園出場こそ叶わなかったが、チームの中でもずば抜けた能力と冷めたような心の奥に秘めた野球への誰よりも熱い思い、そして何よりも時折見せる将来性が見込まれ、ドラフト4位で入団したのだ。入団して4年間、二軍生活ではあったが、それなりの成績を残し、必死に練習を重ね、充実した生活を得られていた。

そしてその年の2月。ドラフト氏名で大卒新人が入ってきた。男の名は二羽鉄哉。その姿を見たモグラーズナインは驚愕した。その容姿はあたかも鏡に映し出したかのごとく五月と酷似していたからだ。

誰もが見間違うような二人。監督やコーチも困ってはいたが、彼等はそれを気にすることなく日々練習に励んでいた。

同じく入ってきた凡田大介(三人目の主人公ではない。)もそうだが、高卒の五月と二羽は同じ年齢である。

五月は困惑を抱きながらも、二羽の積極性が幸いし彼等は知らず知らずのうちに常に一緒に練習をしたり、凡田も交えて食事をするようになっていた。

「おーい五月君!二羽君!また飲みに行くでやんす・・・ってまた一緒に練習してたでやんすか?」

「別にいいだろ。俺はピッチャーで、こいつはキャッチャーなんだから。」

「おいらもピッチャーでやんす!今度からおいらも練習に参加させろでやんす!」

「何?お前、それが人に物を頼む態度・・・。」

「こらこら!こんな所でケンカするなよ。変化球投手の凡田君も一緒にやったほうが効率いいかもしれないし。いいだろ?」

「チッ、まぁいいか。」

「ありがとうでやんす!」

こんな和やかな風景も見られた。

それ以来、共に練習する五月たちの姿はチームにとってもプラスになった。彼らの姿に

チームメイトはやる気を出し、チーム内での団結力も強くなっていった。二人はどちらが

先に一軍に行けるか勝負もしていた。

しかしその年の終わり、モグラーズは恐怖の2年間を過ごすこととなる。

ドリルコーポレーション会長の任月高志が、「もう野球には飽きた!」との一言でモグラー

ズの大量リストラを発表。年俸の高い外国人選手を全てクビにするなどの暴挙に出た。

「くそ、本気で頑張らないとヤベーな。」

「おいらたち、クビでやんす・・・。」

「諦めるなよ!活躍して一軍に上がればいいじゃないか!」

「そ、そうでやんす!」

違う。

二羽と俺はそっくりなようで、全然違う。

それは、周囲を惹きつける力、カリスマ性。

あいつの周りには、俺や凡田以外にも、人がいる。

それに奴は、自ら野球を辞めようとした水木、家の家賃が払えなくなった倉刈、実家を継

ぐ羽目になるところだった古沢、飼っていたペットが原因で危うくクビになるところだった畑山の、四人の選手を救った。そのお陰もあってか、周囲からの人望も絶大だった。

けど、俺の周りには、誰も居ない。

元々外交的な性格ではなく、感受性も鈍い俺は、人と関わろうということをしなかった。

あったのは、野球への熱意だけ。

そんな俺にやっと出来た親友であり、ライバルも、俺とは遠い世界に行ってしまった様な気がした。

俺はまた、独りぼっちになってしまった気がした・・・。

その年、俺はがむしゃらに練習した。みんなと距離を置いて。学生時代、笑われながらも練習したあの時のように。

そんな中、塚本という奴と知り合った。息は合い、夜の街に一緒に遊びに行ったりもした。

居酒屋で知り合った恵理とも、いい感じで付き合っていた。

そんな中、俺に一軍昇格の報告があった。二羽も、凡田も、古沢たち四人も一軍スタートだった。

「やったな!五月!」

「あ、あぁ・・・。」

「頑張ってモグラーズを変えようぜ!頑張ろう!」

「そうだな・・・。」

いつもと様子のおかしい五月を見て、二羽は妙な違和感を覚えた。

そういえば最近一緒に練習をすることも無くなったし、いつも一人で、皆を避けるように練習しているように見える。

何かあいつにしてやれることは無いのか。チームメイトとして、親友として。

一軍に上がったときに約束したように、モグラーズで野球を楽しめれば元気になってくれるのだろうか。

二羽の不安をよそに、時は過ぎていった。

そして、シーズン開幕。

二羽が野々村監督に、「一軍監督就任おめでとうございます!」と言うと、野々村は

「何言っているんだ!私が一軍監督になれたのは、年俸の高い前の人が首になったからだ。私の能力など、これっぽっちも評価されていないんだ。」

確かに、槌田コーチ以外の一軍コーチは全員首になっていた。そのため、手久野コーチ他数人が全員一軍コーチになっていたのだ。

「確かにな。俺たちが一軍コーチになっても、それはあくまで金の問題なんだよな・・・。」

磯田が呟くと、周りの空気もどんよりとしはじめた。

そこに。

「監督、優勝しましょう!!!」

「!?」

「俺達は、人生を野球に、野球にだけに捧げて来たんです。こんな、状況に流されたままのゴールでいいはずがない!」

それは、二羽の声だった。

「あぁ、確かに優勝すればモグラーズが無くなることも無いしな。」

「名案デース!」

水木やドミオも賛成していく。

やっぱりな。

二羽の人を惹きつけるカリスマ性は、絶対に俺には無いもの。

不安と憂いの立ちこめたこの雰囲気を、二羽はたった一人で、たった一言で変えやがった。

そして、モグラーズは変わった。シーズン開幕後は破竹の連勝を続け、6月にはトップへ登り詰めた。

「モグラーズも変わったな・・・。そうだな・・・。『今年の台風の目!破竹の連勝モグラーズはどこまで快進撃を続けるのか!?』うん、いい感じだ。」

連勝のさまを見ていた大谷健司は、スポーツ誌にこの連勝劇の記事を送っていた。

「見るでやんす!パワフルスポーツにモグラーズの記事が載ってるでやんす!あ!これは五月君でやんす!「登板試合連続完封!いまだ防御率0.00!」こっちは二羽君でやんす!「一軍昇格直後、一気に首位打者へ登りつめる・・・。」おいらの記事も無いでやんすか・・・?」

「大丈夫だって。これ見ろよ。「開幕3セーブ!凡田大介の鮮やか投球。」小さいけど、ちゃんと書いてあるよ。」

「本当でやんす!嬉しいでやーんす!!!」

しかし、幸運もそう長くは続かない。

5月の始めのカイザース戦、第二打席のデッドボール。一瞬衝撃を受けたかと思うと、俺の体は仰向けになって倒れていた。歓声とブーイングの中、目の前が真っ暗になった。

全治四ヶ月。俺は即座に入院となり、試合にも出ることが出来なくなってしまった。

「入るぞ。」

二羽が病室に来た。

「今日は危なかったけど何とか勝てたよ。凡田君ったら、今期は必ず2桁勝利勝利だって張り切ってたよ。」

「・・・。」

「これ、お見舞い。置いてくよ。じゃぁな。」

「・・・。」

モグラーズは、その後も破竹の連勝劇。9月にはマジックがつき、優勝も目前と言われていた。

しかし、復帰はしてもブランクから一軍には上がることが出来ず、テレビでひたすら試合を観戦するだけだった。二羽は、最高出塁率、最多安打、本塁打王、打点王という四冠を獲得していた。

そして、五月の中では二羽に対する嫉妬心が徐々に、しかし確実に、増幅していった。

そして、マジックが付いた。

一つ一つマジックを消していって、遂にリーグ優勝が決められた。

遂に日本シリーズ最終戦。

「五月!今日は一軍だ!期待してるぞ!」

野々村から放たれた一言が、五月を突き動かした。

ようやく待ち望んだ、この瞬間。

もう一度、一軍でプレイする。その瞬間が、訪れたのだ!

しかし、リリーフで登板した五月は、目立った活躍を見せられず、二回を投げて安打7、

自責点一。

そして、ブルペン入りしていた凡田の登板が告げられた。

二羽は完璧なピッチングを見せ、3回を完璧に抑え、最終回。

打席は4番、二羽。

初球だった。

カキーン!

心地よい音と共にスタンドへボールが運ばれていく。

グランドが湧いた。

モグラーズの優勝だった。

しかし、事は簡単には終わらなかった。

ドリルコーポレーション会長の任月高志と重役の曽根村がプロペラ団に株を売っていたというあきれた事実が発覚し、モグラーズはプロペラ団へ譲渡されることとなった。

そして、奇妙なトレードや指示が多発し、二羽はバッファローズへトレードになった。

最後の日。球団選手たちや監督たちは寮の前へ集まっていた。二羽を見送るために。

しかし、そこへ五月は現れなかった。彼は自分の部屋の中で、叫びながら暴れまわっていたのだ。

葛藤、嫉妬、スランプ・・・。

五月和雄の心は、このとき完全に、すさみきってしまっていた。

                                  中編へ続く