雑草スターとお荷物ヒーロー
第一話
龍一閃陽介
――ん、ん〜〜〜……
――う……
バサッ
ここは病院だった。その病院のとある一室で、目を覚ました男がいた。彼は被っていた布団を払いのけ、ベットの上に起き上がった。
――……んあ……。こ、ここは……?
――病院……なのか?
――……何で、オレ……ここにいるんだろう?
――確か、モグラーズ球場で……オープン戦終わった後にテレビ局に行こうとして……
――……そして……え〜っと……あれ?
――何があったんだ、その後?
ガチャ
病室の扉が開いて、人が入ってきた。人数は一人。目がねを掛けた男だった。そして、彼は分厚いビン底目がねを掛けている。頬からは、二、三本ほどの長いヒゲが生えている。それ以外の特徴は見当たらない。少し、この男を侮蔑する言い方になるが、パッとしない感じの男だった。
「あ、気が付いたでやんすか? 剣君」
――……つるぎ……?
――オレの他に、この病室で誰か入院しているのか?
男は不思議に思って、周辺を見回す。だが、回りに誰も入院している人間がいない。というよりは、ココが個室なのだから当然なのだが。となると、自分が剣と呼ばれていることを自覚せざるをえない。
――オレが剣? オレにそんなあだ名があったかな……。いや、そもそも……この男は誰だ?
「全く……。オイラの言葉がけむたいからって、前をよく見ないで廊下を走るからでやんすよ、こんな事故が起こったのは」
「へ? 事故?」
男の返答が、目がねの男が予想していたものと少し違っていたためか、目がねの男は少し躊躇した。
「……記憶が飛んでいるみたいでやんすね……。剣君は、モグラーズ球場の廊下で小杉選手とぶつかったんでやんすよ」
――小杉選手とぶつかった? どういうことだ?
――小杉はオレだろ…? にしても……
――……そうか……オレは廊下で誰かとぶつかったんだった。だから、事故で入院しているのか……
ワーーーーッ!!
――……何だ?
剣と呼ばれている男は、今まで気付かなかったが、テレビが点いていることに気が付いた。
そして、テレビでは、ウォリアーズとカイザースがオープン戦で激しく凌ぎを削っていた。
剣がテレビを見た瞬間は丁度、カイザースのエース、猪狩守の必殺技であるライジングキャノンが、甘いコースに行ってしまったために、軽くスタンドへと運んだ小杉優作がベースを回っている瞬間だった。
そして……テレビに小杉が映った瞬間……剣は声を漏らした。
「あれ? 何で、オレがテレビに出てるんだ?」
剣の発言に目がねの男は目を丸く(と言っても、目がねのせいで本当に丸くなったかは分からないのだが……)して、言った。
「剣君? 寝言は寝て言ったほうがいいでやんすよ。剣君は今までで、一度もテレビに出たことがないでやんすよ」
「剣……? 剣って誰だい? オレは、小杉だろ?」
剣の返答に目がねの男は呆れて答える。
「何言ってるでやんす! あんたは、万年二軍でモグラーズのお荷物選手の剣君でやんすよ!」
「は?」
剣という男はいまだに合点がいかないようである。
「お、オレは……小杉……だろ?」
「まだ言うでやんすか! あそこの鏡で自分の顔を見てくるでやんす!」
剣は言われるままに、鏡へと向かう……そして、驚愕する。
「えっ!? えええええええっ!!!」
驚きのあまり「えー」としか言いようの無い剣。そして、剣はさらに続ける。
「誰だよ、こいつー!? これ、オレの顔…? ウソだろぉ!! オレは小杉だろー!! オレはスターなんだーーー!!!」
「ハイハイ……元気になったんでやんすから、退院するでやんすよ」
目がねの男はそう言うと、部屋から出て行こうとする。
「ちょっ、ちょっと待った!!」
「何でやんすかぁ?」
目がねの男は、じれったそうに振り向いてそう言った。
「き……キミは一体…?」
「えーっ!? 剣君はオイラのことを忘れちゃったんでやんすか!? やっぱり何かあったんでやんすか…?」
目がねの男はううむと唸る・・・・・・しかし、すぐに言葉を続けた。
「ま、クビが近いから頭もおかしくなったんでやんすかね……。オイラは凡田でやんすよ。もう忘れないで欲しいでやんす」
凡田という男はそう言って、部屋から出ていった。
そして、部屋にひとり残された男――剣。フルネームは、剣真一(つるぎ しんいち)である。年は、今年で29になる、いわゆる、ベテランの領域。
尤も彼の場合は、ベテランと謳われるような活躍をした経験は全く無いのだが……。
――オレは、剣……という男なのか…?
――待てよ…? 確か,凡田という男は、さっき……
――廊下で小杉選手とぶつかって……ここに入院したと言っていた。
――あの時、ぶつかったヤツが……剣だったということになる。
――…………まさか!!
――廊下でアイツとぶつかった時に、体が入れ替わったってのかよ!?
――……いやいや……。そんなマンガみたいな話があるわけないよな……
――いや? でも、オレは小杉だ。じゃあ、オレは何でこんな体と顔をしているんだろう?
――くっ。認めたくは無いが……どうやら、その『マンガみたいな話』を認めざるをえないようだな……
――ああ〜〜!! にしても、これから一体どうすりゃいいんだよ〜〜〜!?
ベットの上で一人、頭を抱えて悶絶する……。彼の感じている気持ちというものはおそらく、誰にも理解できない悩みであった――
続く