即興SS大会 予行編その2
お題『朝、7主人公の部屋にいる誰か。その後の展開を書け』
挑戦者A 若干タイムオーバー
瞼の向こうが明るい。
朝だ、ということを頭で理解していても、仲の良い両瞼を引っぺがす事はそうそう容易ではない。大抵の場合は、母さんが起こしに来るまで、僅かながらのロスタイムを満喫することになる。
だが、今日はどうしてか違和感があった。
微妙な寝心地の悪さ。まるで、誰かに見張られているような感覚。
耐え切れず、薄らと目を開いてゆく。視界に大写しになる、板張りの天井をバックにした、見知った女の子の顔。
「あ、起きた」
「ん、なんか見られてるような気がしたからさ」
「寝顔、かなりマヌケだったよ」
「そりゃ、寝顔までコントロールできるヤツは早々いないだろうしなあ」
「うん……でも、割とかわいかった」
「そっか、ありがと」
のそのそと布団から這い出ると、部屋を出、トイレで用を足し、まだ眠気の残る顔に冷水をぶっかける。
そして部屋に戻ると、緩慢な動作で寝巻きを脱ぎ始めた。
「わあ……結構、すごい筋肉……」
「まあ、野球部だからね。毎日鍛えてりゃこのくらいになるよ」
「し、下も脱ぐの?」
「変なこと聞くな。制服なんだから、アタリマエ――って、ままままま、まゆみちゃんっ!?」
両手で慌てて体の随所を隠しながら、どういうわけか朝っぱらから部屋にいたまゆみちゃんから後ずさる。
「気付いてなかったの?」
怪訝そうに眉を顰められる。意外と冷静だった。
「うん、寝惚けてたし……で、どうしてここに?」
「えっと……ちょっと、寄ってみようかなって。そしたら、おばさんが部屋まで通してくれて」
「へぇ、母さんがねぇ」
手早くズボンに足を通しながら、上機嫌に鼻を鳴らした。
部屋にまゆみちゃんがいたことは驚いたが、考えてみればこうして二人きりになれる機会はとても少ない。母さんにしては、とても気が利いている。
まゆみちゃんも、部屋に二人きりというシチュエーションに気付いているのか、どことなく落ち着かない様子で視線を彷徨わせているし、頬も心持ち朱が刷かれているように見える。
まるでその様子は、何かを期待しているかのように。
「まゆみちゃん……」
「え……あ、朝から……するの?」
戸惑いがちな声、だが拒絶はしない。
俺はまゆみちゃんの華奢な肩を抱き寄せると、その震える唇へと――
「アンタ、とっとと着替えくらい済ましなさいよ! 朝ご飯できてんだからね!」
「……まあ、こんなこったろうとは思ってたけどさ」
挑戦者B
けたたましい蝉の鳴き声が頭をつんざく
窓から差す強い日差しを肌で感じながらパワポケは目を覚ました
ゆっくり上半身をおこし、眠気眼で部屋を見渡す
小テーブルの上にはラーメン鍋
床に転がるいくつものジュース缶
そして死んだように眠るチームメイト達
「そっか、昨日打ち上げで・・・俺の家にみんな泊まったんだっけ」
心地良さそうに深い寝息を立てる湯田君を蹴飛ばさないよう
そっと彼は部屋を出た・・・
真白い休日の住宅街をゆらゆらと歩く
まだ夢の中にいるようだ
じわじわ熱気をあげるアスファルトをわたり
ぼんやりと散歩をしていると、見知った背中を見つけた
「・・・監督」
公園の橋に腰かけコーラを飲んでいるその中年男に
パワポケは声をかけた
「よお、キャプテンじゃないか」
男はこちらをふりかえり簡単な挨拶を交わすと
また川にむきなおり瓶を口に運んだ
「甲子園優勝おめでとう」
お祝いの席に監督はいなかった
誰も誘おうとは言わなかった
みんな笑っていた
いままで頑張ってきた努力が報われて
心から勝利を噛締めて泣いた
そこに監督はいなかった
そのことに、自分だけ気がついてしまった
「しゃきっとしろよ?ニホンイチだぜお前」
監督とよばれた男、佐和田はパワポケをもう見ようともしない
ただ目の前のゆらぐ川面を眺めていた
「・・・俺のことは気にするな、はじめからいなかったものと思え
なんにも、してなかったんだからな」
ヒーローがいなくなりチームのなかでずっと気まずいままだった先生
あの時、もしいっしょに戦ってくれてたならと
思うこともあったのだが
「俺はずっとフェンスの外だったんだよ、はじめから最後までな」
気がつけばパワポケはひとりで立っていた
空に張った網のような木漏れ陽から
蝉の泣き声が洪水ように降り注ぐ
うつむいた彼の影に深く深く染み付いて
「・・・それでも
それでも俺は・・・
監督を嫌いにはなれません・・・」
いつまでも彼をそこへ縛り付けていた
挑戦者C 若干タイムオーバー
時計のベルが鳴り響く。朝の余韻にまどろみながら、頭はゆっくりと覚醒していく。だけど、それでも起きあがりたくはなくて、無理やり頭から布団を被る。
「起きて」
女性の声と共に規則的に体を揺すられる。チクリとする痛みもあり、俺は布団から出るしかなかった。
――母さんか? そう思ったがしかし、視界に入った姿は俺と同じ高校生、青髪に髪飾りを付けた俺のかつての彼女だった。
「久しぶりだね」
「そうだね……小春ちゃん」
今日の食卓に並んだのは、小春ちゃんがスーパーから持ってきたと言うお惣菜物だった。俺はそれをゆっくりと噛みながらも、彼女の方は向いていた。人間、何かをしながら話すほうが気楽だ。
「肘の調子はどう?」
「多少痛むけど、こうして飯を食う分には問題ないよ」
「そう、良かった。……そういえば、花丸高校、今年は本当に強かったよね」
「甲子園優勝、ヒーローがいたおかげだな。結局、俺が居なくても何とかなったって訳だ」
「そんなことは――」
俺は何かを言いかける小春を手で制した。
「なぁ、もうやめないか。はっきり言ってくれ、約束は『甲子園優勝で海外留学を止める』だった。言葉どおりならその賭けに勝ったことになる。だけどな、俺は表か裏かを決めるコインすら受け取ることができなかったんだ。だから――」
俺は彼女の目をはっきりと見た。
「さよなら」
彼女は何も言わず外へ出た。俺はその表情は見なかった。
俺は座ったまま上半身でピッチングの動作をする。ビリッと静電気が中から来たような感覚を覚えた。どう思われようとも、これが俺の選択だ。