35 「ヘルガさ〜ん・・・・・」 ユウジが呼んでいる。 「・・・なるべく声は出すなと言っただろう? ・・・・何だ?」 「そ、そろそろ休もうッス〜・・・・疲れたッス〜・・・」 「・・・何だ?野球選手とはその程度なのか? 私はまだまだ歩けるが」 後ろで再び声があがる。 「そんなこと言ったって・・・。 だって会ってから歩きっぱなしッスよ・・・? それにもうそろそろ12時ッス・・・・」 自分の時計を覗く。どうやら本当のようだ。 「・・・・まあいいだろう。 適当な所を見つけて休息をとろう」 「ふぃ〜〜〜〜〜〜ッス・・・。 疲れたッス・・・」 ユウジがディバックを「ドサッと」下ろす。 「ユウジ、いくら休息中とはいえ注意は怠るな。 ・・・死に繋がるかもしれないのだぞ」 「・・・うぅ、厳しいッス・・・」 ユウジがため息をつく。 そんなユウジを見て、心が少し落ち着く。 「・・・では、一人ずつ寝るぞ。 もう一人は見張りだ。いいな?」 「え?ヘルガさんも寝るッスか? さっきは「疲れてない」とか言ってたのにッスか?」 「馬鹿者。 私は「歩ける」と言ったまでで「疲れていない」とは言っていない。 私だって人間だ。疲れるのは当然だろう?」 「うぅ、へりくつッス・・・」 「何か言ったか?」 「ハッハッハ、何の事ッスか? それより、どっちが先に寝るッス? ここはやっぱり公平にジャンケンがいいと思うッスが・・・?」 ユウジが意味不明な言葉を言っている。 「ユウジ、ジャンケンとは何だ?」 「え、ヘルガさんジャンケンを知らないッスか? マニアックな日本語知ってるのに常識は知らないッスねえ?」 「む・・・。日本語は島で収容者から覚えただけだからな」 「とりあえずジャンケンについて説明するッス。 ・・・コホン。それでは役の説明ッス。 まずこれがグー、グーッス。 指を閉じて拳をつくるだけッス」 私も真似して拳をつくる。これがグーか。 「・・・次に、これがチョキ、チョキッス。 人差し指と中指を立てるッス」 これがチョキ・・・。私もユウジと同じようにする。 「最後に、これがパー、パーッス。 手を全部開くだけッス」 パー。何か馬鹿にされているような気がする。 「ジャンケンで使う役はこれだけッス。 後はこれを同時にだして、互いの役で勝敗が決まるッス。 グーはチョキに、チョキはパーに、パーはグーに勝つッス。 ちなみに、同じのが出たらあいこッス。 もう一度やり直しッス。 ・・・・大体こんなもんッスけど、分かったッスか?」 私は首を縦に振る。簡単な遊びだ、と思った。 「それじゃ早速始めるッス。 ・・・あ、そうだ。 始める前に、お互い「じゃーんけーん、ぽいっ」って言うッス。 「ぽいっ」の後に手を出すッス」 「・・・それは何かの儀式なのか?」 「・・・・知らないッス。それじゃいくッスよ!」 私はとっさに考える。 (何を出す? ユウジは・・・・グーから説明したということはグーが好きなのか? だとしたらパーを出せば勝てるが・・・。 ここは裏をかいてチョキを出す!) 「「じゃーんけーん、ぽいっ!」」 ―――ユウジの手は、固く握られていた。 「ハッハッハ、何か悪いッスねえ」 「・・・そう思うのなら私と代われ」 「それとこれとは話が別ッス」 「む・・・」 仕方ない。 軍人たる者、与えられた任務は全力でやらねば。 (―――しかし、これはこれで暇だ) 「・・・ユウジ、何か話をしろ」 私は、ユウジに顔を見せないように話しかけた。 「え?しゃべっていいんッスか? さっきはダメって言ってたのに・・・」 「今は休憩中だ。たまには気分転換も良い」 適当な理由をつけて返す。 ちなみに、さっきというのは――― 『ヘルガさん、ヘルガさん、何か話しようッス。 まずは俺のことから話すッス! 俺は日本の野球選手で―――』 『・・・ユウジ』 『その中で俺はダイエーホークスというチームを―――』 『・・・・ユウジ!』 『な、何ッスか?これからがいいところなのに・・・』 『進軍中は余計な口を開くな。 集中力が散漫するし、敵に見つかりやすくなる』 『・・・小声で話せば・・・』 『ユウジ』 『・・・鬼軍曹・・・・』 『何か言ったか?』 『気のせいじゃないッスか?』 ちなみに、ユウジの言っていた「マニアック」とはこのことである。 『なあユウジ』 『あ、話してもいいッスか?』 『・・・・こみけとは何だ?』 『は?』 『いや、収容者の一人がしゃべっていたのだが、意味が分からなくてな いつか聞きたいと思っていたのだが・・・今聞くとするか。 ユウジ、どういう意味なのだ?』 『あ、いや、それは・・・』 この後、しばらくユウジと会話をしなかった。 「じゃあアレッス。 ヘルガさんのことを話して欲しいッス」 「私のことだと?面白いことはないぞ?」 「それでもいいッス」 「・・・私は話すのが苦手だ」 「ちゃんと聞くから大丈夫ッス」 「・・・・」 期待に満ちた目でユウジが見てくる。 「・・・明日もあるのだから早く寝ろ。 それとも、私が寝ていいのか?」 「うう・・・ずるいッス・・・。 じゃあ約束ッス。 今度の休憩の時には話して欲しいッス。 約束しないと寝ないッス」 「なあユウジ、何故私のことをそんなに聞きたがるんだ?」 「それは―――」 しかし、その言葉の先を聞く事はできなかった。 突然、ノイズ音が聞こえる。 ―――そして、聞き覚えのある声が話しかけてきた。 『・・・・ゲーム参加者諸君、夜遅くの放送申し訳ない―――』 【8 小角 41 ヘルガ 休息中】 【残り35人】