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               53 「お父さん・・・お父さん・・・・」

少女は、泣き続けていた。

いくら色んな女の子と話してきたとはいえ、父を失った直後にかける言葉なんて思いつかない。

とりあえず俺は、頭を撫でる。

―――しかし、効果がありそうにもない。

少女は、相変わらず泣き続けている。

(確か・・・日出子ちゃん、だったかな)

「え、と・・・日出子ちゃん、ここにいると危ない。
 すぐに人も集まってくる。
 さ、早く移動しよう・・・」

日出子は顔を上げない。

(聞こえていないのかもな・・・)

「―――その男の言う通りだ。
 ここらへんに人が集まってきている。
 殺意を持っている奴なら、容赦なく殺されるぞ」

「―――だ、誰だっ!」

―――俺としたことが、二回もでかい声をあげてしまった。

俺が見た先に立っていたのは、弓を持った長髪の男だった。

「倉刈が亡くなったか――――クソッ」

どうやら、倉刈さんを知っているらしい。

「・・・名前ぐらい言ったらどうだ?」

「・・・・・鋼だ」

淡々と言う。

「・・・三鷹だ」

名を言われたら、返すのが礼儀だ。

「・・・・さっきも言ったが、早くここから遠ざかった方がいい。
 近くで銃声が聞こえた。
 お前達の他にも誰かがいるということだろう」

「・・・なぜ声をかけた?」

「・・・後で話す。
 今は―――一刻も早くここから遠ざかった方がいい」

「・・・・お前は・・・これにノッていないと考えていいんだな?」

「・・・殺し合いの時間は終わった。
 ―――参加者を集め、戦力を高める・・・・それが、今の目的だ」

「何を・・・言っている?」

言っていることが分からない。

(殺し合いは終わり?戦力を高める?なんのことだ―――)

「―――俺は他の者と接触を図る。
 お前らは―――ここを真っ直ぐ進め。
 ある程度進んだら止まれ。そこが―――集結地だ」

「は・・・・?」

「・・・・じゃあな」

それを言うと、鋼は行ってしまった。

(よくわからんが・・・ここから離れるのには同意だ)

俺は、また日出子ちゃんに声をかける。

「日出子ちゃん・・・今の話聞いただろ?
 ―――移動しよう」

だが―――やはり、日出子は動こうとしない。

(・・・・仕方がない)

俺は、日出子ちゃんの腕に触れる。

「・・・・行こう」

だが、その手は強く引き剥がされる。

「・・・・・・っ・・・・。
 日出子ちゃん、ここにいたら殺されるんだ。
 悲しい気持ちは分かるけど、いつまでもそうはしてられないんだ!」

「・・・・私は・・・お父さんと・・・ここで・・・・」

「・・・・・・」

俺は黙ってしまう。

「ここで・・・・死にます・・・・」

「・・・・・・馬鹿・・・・言ってんじゃねえよ」

「・・・・・!」

日出子ちゃんを睨む。

「・・・何のために、倉刈さんが死んだと思ってるんだよ・・・・。
 自分の命と引き替えにしてまで、何で日出子ちゃんを助けたと思ってるんだよ!
 ・・・・日出子ちゃんに、生きて欲しいからだろ?
 だから・・・分かっているのに、突っ込んでいったんだろ?
 ――――なあ、日出子ちゃん・・・。
 頼むよ・・・・。
 倉刈さんのことを思っているんだったら・・・・動いてくれよ・・・・」

俺は、泣いていた。

理由なんて、知らない。

ただ、いつの間にか・・・・泣いていた。

「おとう、さん・・・・・」

日出子ちゃんが、顔を上げる。

「―――さあ、行こう」

俺が差し伸べた手に、日出子ちゃんの手が、重なった。






―――空蝉という言葉がある。

魂が抜けて、虚脱状態になった身のことをいう。

今の私は、まさにその状態だった。

どれくらいの間、ここにいたのか。

長い、長い時間が経っている気がした。

私は、何をしていたんだろう。

泣いていた・・・?呆然としていた・・・?

分からない。

思い出そうとすると、あの光景が蘇ってくる。

(パワプロくん・・・・・・・)

悲しい。

だけど、涙が出ない。

―――既に、出す涙が無くなってしまったのかもしれない。

突然、レーダーの光が増えた。

その光はかなりの速さでこっちに向かってきていた。

しかし―――動こうとは、思わなかった。

光が、私の真後ろに来た。

だが、気配が無い。

―――そんなことは、私にはどうでもよかった。

「・・・・大切な人を・・・・失ったのか・・・?」

後ろから声が聞こえてくる。

やっぱり人はいたらしい。

「・・・・・・はい」

口が、勝手に動いた。

「・・・・この家には―――死体が4体あるようだが・・・・?」

そんな言葉は、聞きたくなかった。

「・・・・二人は殺されて、一人は殺した人と相打ちです・・・」

だが、やはり口が勝手に動く。

「・・・・・その眼鏡の男の名は―――」

後ろの人がそこまで言ったときだった。

「――――いい加減にして下さい・・・!
 初めに言ったはずです、大切な人を失った、と。
 それなのに、なぜ、その事を聞いてくるんですか?」

「・・・・」

枯れたと思った涙が、再び出ていた。

「大切な人を失った悲しみ、あなたに分かりますか?
 ずっと会いたいと思っていて、やっと会えたのに引き離されて―――
 あなたに―――その悲しさが分かりますか?」

後ろを向いた。

立っているのは、髪で目を、包帯で口を隠した男だった。

「・・・・・分かるさ」

「・・・・なら、どうして・・・・!」

言おうとしていた言葉を、途中でやめる。

―――男は、泣いていた。

「―――昔・・・・私も大切な人を失った。
 悲しかった。
 だけど・・・私には、悲しみを共有できる人なんていなかった。
 家の事情から、葬式すらも開けなかった。
私は―――一人で悲しみを背負った。
 その時に、思った・・・・。
 大切な人を失った悲しみを一人で背負うのは、本当に寂しいことなんだ、と。
 だから―――他の人を、同じ思いにさせたくなかった・・・。
 ――――分かって、くれたかな?」

気のせいか、最後の言葉は、女の人が喋っているように聞こえた。

「・・・・怒鳴って、スイマセンでした・・・・」

「・・・いや、こっちが図々しかったかもしれない。
 こちらこそ―――悪かった」

男が、目の涙を拭く。

そして、突然話し始めた。

「―――大神が死んだ。
 脱出と行きたいところだが、船は爆破されていた。
 ・・・大神は、死ぬ間際に最終手段に出た。
 このままだと・・・島の人は、全滅する。
 だから、一刻も早く人を集め、解放軍をつくる。
 詳しくは歩きながら説明する。
 今は―――早く西に逃げた方がいい。
 さあ、行こう―――」

手を出してくる。

(この人は―――信用できる――――)

私は、そう思っていた。

「ちょっと待って下さい」

そう言うと、私は再びパワプロくんの前に立った。

「パワプロくん・・・・ありがとう・・・・」

帽子を取る。

落ちていたレーダーを拾う。

「・・・・・行きましょう」

私は、歩き出した。

【14 倉刈 日出子 45 三鷹 光一 西へ】
【20 進藤明日香 21 迅雷 隼人 西へ】
【35 鋼 毅 アジト周辺へ】
【残り18人】