58 「―――そろそろ大丈夫かな?」 「――――そうですね。そろそろ止まりますか?」 「――――よし、荷物を置いて。休憩しよう」 俺は、その場に荷物を置く。 三つのバッグが地に落ちる。 (ハハハ・・・流石に三人分もって歩くのは疲れたな・・・) ため息を一つ吐く。 「あ、あの・・・大丈夫ですか?」 日出子ちゃんが、俺の顔を覗いてくる。 「ああ、大丈夫だ。三人分ぐらい楽だぜ? これでも一応プロ野球選手なんだぜ?」 俺は、胸を張って言う。 ―――我ながら、説得力がない。 「そうなんですか?」 日出子ちゃんが、驚いたように俺を見る。 「あれ、知らなかった? 俺、ダイエーのピッチャー・三鷹 光一。 結構活躍してるんだけどなあ・・・」 名前を知られていないとは、少しショックだ。 「す、すいません・・・。 ・・・大学入ってから、勉強にばっかり集中してて・・・」 申し訳なさそうに、顔を伏せる日出子ちゃん。 「あ、いや・・・いいんだ。 ・・・それより、お互い自己紹介してなかったよね? 日出子ちゃん、軽く自己紹介してよ」 とりあえず、日出子ちゃんに話を振っておく。 (・・・脱出したら、もっと練習するか) 「・・・自己紹介って・・・何を言えばいいんでしょう・・・」 「ん?なんでもいいよ。 誕生日とか、趣味とか、好きな食べ物とか・・・」 これは俺の得意分野だ。 身近なところから話していき、徐々に親しくなる。 「え、えーと・・・。 ・・・倉刈 日出子、20歳。大学生です。 趣味は・・・・ウインドーショッピング・・・かな? 好きな食べ物は・・・特に無いです・・・・」 「ウインドーショッピングか。 俺もたまに行ってるよ。 ま、スポーツショップばっかだけど」 ――――話しながら、俺には気になることがあった。 肉親を失った直後だというのに、まったくその影が見られない。 (・・・強がっているのか・・・?) しかし、強がっているとは考えにくい。 さっきまでの悲しみから考えると、強がるのは難しすぎる。 (なら、どうして―――) 俺は、目の前にいる少女の顔を見る。 (―――どうして、こんなに普通に振舞うことができるんだ?) 「―――鷹さん、三鷹さん?」 「・・・え、あ・・悪い。ボーっとしてた」 ハハハ、と軽く笑おうとしたときだった。 日出子ちゃんの後ろから、人が走ってきた。 「――――日出子ちゃん、隠れろ!」 俺は、腰に下げていた扇子を広げる。 ―――走ってきた人は、少女だった。 手に銃を持っていて、怯えた顔をしている。 (武器的に不利だ、まずは交渉・・・・) 「・・・・こっちに争う気は無い。 お互い武器を地面に置かないか?」 「・・・・ホントに、ですか?」 「・・・え?」 「ホントに、戦う気が無いんですか?」 「・・・・ああ、俺はかわいらしい少女を傷つけるような真似はしない」 どんな状況でも、これだけは忘れない。 「・・・・」 少女が、無言で銃を下ろす。 俺もそれに続き扇子を腰にかける。 (東のほうから走ってきたということは、もしかして―――) 「なあ、もしかして・・・鋼に言われてここに来た?」 俺は、とりあえず考えられることを少女に聞く。 「・・・名前は知らないんですけど、髪の長い、弓を持った男の人に・・・」 (ビンゴ!) 「そうそうそう、それが鋼! 鋼に言われてきたなら、ここでキミも待つといい。 多分他にも後から来るはず・・・・。 ・・・あ、名前教えてくれない? 俺は三鷹。キミは?」 「・・・神木・・・唯です」 「唯ちゃん、って呼んでいいのかな?」 「は、はい・・・・」 「―――分かった、しばらく休んでいるといい。 見張りは俺がやっておくから、さ」 唯ちゃんはまだ落ち着いていないようだ。 無理もない、かなり急いでいたようだった。 (・・・今は、そっとしておくか) 唯ちゃんの方を見る。 日出子ちゃんと、軽く話をしている。 (――――それにしても) 俺は、ふと思う。 (女の子二人に、男一人。 しかも女二人は美少女、男は美男子。 ・・・三角関係の予感、か!?) 思わず、顔がにやける。 (嗚呼神よ、このまま時間を止めてくれ!) 「―――三鷹、無事か!?」 ―――止まらなかった。 「・・・ああ、心に傷を負っただけですんだぜ」 「・・・・何の話だ?」 俺の目の前には、息を切らした鋼が立っていた。 弓の他に剣も持っており、外傷は特に見当たらなかった。 「そこの女の子も無事合流していたか・・・」 鋼が、唯ちゃんを見ながら言う。 「あ・・・さっきは、ありがとうございました・・・・」 何かあったらしい。 「いや、大した事ではない。 ―――それより三鷹、ここにいるとじき敵がくる。 その敵は・・・傷が回復する。 俺が知っているだけで、5人、危険な連中がいる。 早く西へ逃げて、イカダでも作って脱出するべき――――」 「――――いや、それはお勧めできない」 ―――全く知らない人の声がした。 「誰だ!」 鋼が剣を構える。 「―――安心しろ、敵意は無い」 声の持ち主が、姿を現す。 髪で片目を隠した、奇妙な男だった。 「こっちだ、藪に注意して・・・」 後ろの人を見たとき、俺は思わず声をあげた。 「―――あ、明日香ちゃん!」 「―――三鷹、くん・・・?」 ―――思わぬところで、再会した。 明日香ちゃんが、近づいてくる。 俺の目の前でつまずく。 「―――おっと」 明日香ちゃんの体を支える。 明日香ちゃんが、自然と胸元に入ってくる。 (お。ラッキー・・・) ―――だが、そのとき異変を感じた。 ――――明日香ちゃんは、泣いていた。 ――――声をあげて、泣いていた。 「あ、明日香・・・ちゃん?」 俺には、戸惑うことしか出来ない。 「な、何があったんだ・・・?」 「・・・ううっ・・・みたか・・・くん・・・」 「・・・・どうしたんだ・・・?」 「ぱわぷろくんが・・・・・ぱわぷろくんが・・・・」 「・・・キャプテン・・・?」 (キャプテン・・・確かに参加者に同じ名前の人がいたけど、別人だろ? キャプテンは・・・・10年前に、死んだはず・・・) 「ぱわぷろくんが・・・わたしをまもって・・・・かめだくんと・・・・」 「亀田・・・?」 (・・・話が読めない・・・どういうことだ・・・?) 「かめだくんと・・・・ううっ・・・・」 そこまで言って、再び泣き出してしまう。 (一体・・・何がどうなっているんだ・・・?) 俺は、黙って明日香ちゃんに胸を貸す。 ―――俺には―――泣く少女を、慰めることも出来なかった。 ―――俺は、そっと明日香ちゃんの頭を撫でた。 ―――自分が、どうしようもなく情けなく思えた。 【12 神木 14 倉刈 20 進藤 21 迅雷 35 鋼 45 三鷹 集合】 【残り16人】