60 迅雷と鋼の話し合いにより、俺たちはさらに西に向かうことにした。 明日香ちゃんは泣き止んだものの、まだ虚ろな目をしている。 唯ちゃんは普通に歩いてはいるが、疲れが溜まっているのが目に見えた。 ―――日出子ちゃんは、いたって普通に歩いている。何事も、無かったかのように。 この場に、迅雷はいない。 アジトの周りにいる連中を集めるために、俺たちとは別行動となった。 ―――鋼と俺は、呆然と歩いていた。 迅雷から島の話を聞き、とても動揺した。 話が本当なら―――俺たちに勝ち目は無い。 鋼でさえ、一人と戦うのがやっとだった。 ―――それが、五人。 絶望に、打ちひしがれた。 勝つ確立を上げるには、島の人を集めるしかない―――。 全員で行こうとしたが、迅雷に止められた。 『お前らは女子三人を連れて西に逃げてくれ』―――ということだ。 ―――俺たちは武器を全て集め、配りなおすことにした。 俺と日出子ちゃん、唯ちゃんが持っていた武器は―――鉄扇、救急セット、マシンガン。 鋼が持っていたのは剣と弓矢、弾の無いショットガンとハンドガン。 迅雷と明日香ちゃんが持っていたのは、プラスチック爆弾と地雷、レーダー。 俺たちは迅雷にレーダーと救急セット、剣を渡し、別れた。 ―――そして、歩くうちに―――二度目の夜が来た。 「・・・へ、ヘルガさ〜〜〜ん・・・・」 「・・・情けない声を上げるな、ユウジ」 「そんなこと言ったって・・・またもや一日中歩き付けッスよ・・・? いくらプロ野球選手でも・・・疲れるッス・・・」 「・・・・」 ヘルガが、無言で前方を指差す。 「・・・・向こうで足音がする。静かに近づき―――様子を見るぞ」 「・・・」 小角が無言で頷く。 ―――夜の森を、二つの影が動く。 「・・・・ねえ、ヘルガさん・・・」 「・・・私語は慎めと言ったはずだが・・・?」 「・・・・ヘルガさん、好きな人っているッスか?」 「・・・・ユウジ、今そんなことを聞くような雰囲気だと思うか?」 「・・・・もし何かあったらもっと聞けない雰囲気になるッス」 「・・・・・答える気は無い」 「・・・ということは『いる』ということッスね」 「・・・・勝手にしろ」 「・・・・そうさせてもらうッス」 「・・・・それにしてもお前は雑談が好きだな」 「・・・・好きってわけでは無いッス」 「・・・・姉の話を一時間以上もする者が言っても説得力に欠けるぞ」 「・・・・姉ちゃんの素晴らしさをヘルガさんにも教えたかっただけッス」 「・・・・普通はそんなに話せんぞ」 「・・・・そうッスかねえ?」 「・・・・!・・・・足音が近くなってきた。ユウジ、頭を下げろ・・・・」 二人が、頭を下げて歩く。 「・・・・ヘルガさん・・・・」 「・・・・なんだ」 「・・・・もし・・・相手が攻撃してきたとしても、銃は撃たないで下さいッス・・・・」 「・・・・何を言っている?」 「・・・・ヘルガさんが・・・人を殺すところなんて、見たく無いッス」 ヘルガが、横に首を振る。 「・・・・私はすでに多くの人を殺してきた。立派な―――人殺しだ」 「・・・・それでも・・・・オレは・・・そんなヘルガさんを、見たく無いッス」 「・・・・今ここで殺さなくても・・・・私が人殺しだということに、変わりは無いのだぞ?」 「・・・・」 ヘルガが、茂みの前で足を止める。 その場にしゃがみ、耳を澄ます。 小角もそれに習い、しゃがむ。 ―――二人の目の前を、足音が通り過ぎる。 「・・・・5人、か」 ヘルガが、つぶやく様に言う。 ―――やがて、足音が過ぎ去る。 「・・・いいか小角、知り合いがいても・・・大きな声を上げるな」 ヘルガが茂みから顔を出す。 小角も、続いて顔を出した。 「三鷹さん、三鷹さんッスよね?」 突然、そんな声が聞こえてきた。 「誰だッ!」 鋼がこっちを向き銃を構える。 「―――!」 茂みから顔を出した女も、こっちに銃口を向けている。 そして、その横に―――。 「・・・・小角、か?」 「そッス!ショートの小角ッス! いやー、奇遇ッス!こんなところで会えるとは・・・むぐ」 隣の女に口を塞がれる。 「・・・・小角、知り合いがいても声を出すなと言ったと思うが?」 「三鷹さんは信用できる人ッス。オレのチームのピッチャーッスよ?」 「・・・・理由になっていないぞ」 「鋼、銃を下ろしてくれ」 俺は、鋼に声をかける。 「・・・大丈夫なのか?」 「・・・・多分、な」 ため息を吐く。 女の子たちは身を寄せ合い、怯えた目で小角たちを見ている。 (・・・・やれやれ・・・) 俺は、小角に近寄る。 「小角、横の女性は?」 「ヘルガさんって言うッス。怖いけどいい人ッスよ?」 「・・・・よろしく」 「綺麗な女性と二人旅、ってか?邪魔したか?」 「そ、そんなんじゃないッスよ!それに声かけたのはオレの方ッスから」 「―――ミタカ、といったか?」 突然、ヘルガさんに声をかけられる。 「ああ」 少しイントネーションが変だが、間違ってはいない。 「見たところ5人で行動しているようだが?」 「ああ、その通りだ」 「・・・・仮にも二人しか生き残れない状況だということは?」 「知ってる」 馬鹿にされている気がする。 「ではなぜそんなに多くの人数で行動している?」 そういうことか。 「状況が―――変わったんですよ」 「―――何?」 「鋼」 自分でも解説ぐらい出来るが、鋼のほうが上手そうだ。 「・・・鋼だ。 簡単に―――三鷹の言った『状況』について説明させてもらう」 ―――迅雷は、まだ戻っていなかった。 ―――満月の次の夜。 本来、月はほとんど満月と変わらない姿を見せてくれる。 だが、その夜は違った。 12月30日、夜。 月は雲に隠され、全く見えない。 月が泣くかのごとく、雲から雨が落ちる。 ―――島に、雨が降った。 ―――葉が生い茂る森の中でも、雨粒は容赦なく降り注ぐ。 ―――雨に打たれながら、二人の男が対峙していた。 ―――水木 卓(43番)と――――野球マスク(49番)。 ――――島は、明かり一つ無い闇に閉ざされていた。 【8 小角 雄二 41 ヘルガ 合流】 【41 水木 卓 49 野球マスク 鋼らとは少し離れた場所で対峙】 【残り15人】