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互いの武器を構え、睨み合う二人。

雨音のみが、静寂を妨げる。

雨は、容赦無く降り続ける。

時が止まったとも思えるような空間。

水木が、服に続けて帽子を投げる。

水を含んだそれはすぐに地面に落ち、泥に濡れる。

―――やがて、どちらとも無く動き出す。

それが――――時の動きを伝える合図。







斧を大きく振る。

男はそれを刃の短い剣で受け止め、流す。

流れるように俺の懐に入り込み、上に切り上げてくる。

体を大きく捻り、バットのスイングのように斧を振る。

――――ヴォン――――。

斧が空を切る。

「――――チィッ!」

地面に転がるように伏せる。

――――ヒュン―――。

剣が空を切る音がする。

俺はそのまま一回転しながら斧を振り、男を遠ざける。

男が、後ろに下がる。

―――男の手は、赤い。

対面したときもそうだったが、今はそれにも増して赤い。

(深い傷も無い様だが・・・・)

雨に濡れ、固まった血が融ける。

剣を握った手から、血が滴り落ちる。

(武器を何も持っていなかったところを見ると、素手で戦ってきた、ということか?)

二人は、再び睨み合う。

じりじりと間合いを取りながら動く。

(・・・・まさか、な)

地面はぬかるみ、上手く踏ん張ることは出来ない。

「・・・・」

滑るように足を動かしながら、男と平行移動する。

靴に泥がつき、重い。

(靴を脱ぐのは・・・ダメだ、森の中では危険だ・・・。
 ―――靴を履いているという条件は相手も同じ、気にする必要は無いか)

再び男と向かい合う。

(斧を短刀で止めるほどだ。
 相当の腕力の持ち主・・・・ドミオなんて比にならんな。
 こっちは斧、機動性で劣る・・・・。
 懐に入るには武器が大きすぎる。
・・・力ずくで剣を吹っ飛ばすしか無いか・・・)

斧を右手一本に持ち替える。

足を肩幅に開く。

「―――――ッ!」

ぬかるんだ地面を力一杯蹴る。

マスクの真ん中に向けて斧を振る。

男はマスクを守るように斧を受け流し、剣で突いてくる。

「・・・オラァッ!」

剣を喉すれすれの所でかわし、蹴りを入れる。

それは体ごと避けられ、逆に俺の腹部に蹴りが入る。

「―――ガッ・・・」

重い。

軽く蹴られただけなのに、腹に響く。

(う・・・・まさか、今ので・・・)

腹をさする。

いつもと違う感触が、そこにあった。

(アバラがイッたか・・・なんつうキック力だ・・・)

よろけながら、必死に男の剣を避ける。

だが、動きの鈍った体では完全に避けきることはできず、体に傷が増えていく。

(クソ・・・・。全然攻撃の手が止まない・・・・。
 ――――――だが―――――)

真っ赤に染まった躰。

(――――俺は――――)

真っ赤に染まった手。

(――――俺は――――愛を守るためにここまでやってきたんだ――――!)

「―――ウオオオオオオオオオオ!!」

斧を思い切り振り上げる。

男に向かって踏み込み、とにかく斧を振る。

「・・・・」

だが男は冷静に斧の柄を掴み、動きを止める。

男の剣が、俺の脇腹に突き刺さる。

「グッ・・・・!」

アバラの痛みと合わさり、全身に痺れるような感覚が走る。

「・・・・・グ、グフッ・・・」

口の中に溜まっていた血を吐く。

「・・・ククククク・・・・」

男の手ごと剣を掴む。

「・・・・そんなもんか・・・・そんなもんなのか・・・・?」

剣は、俺の体に刺さったまま。

血は、傷から流れていく。

「・・・その程度じゃ・・・・俺は死なねえよッ!」

左手で男の手を掴んだまま、右手に持っていた斧を横に凪ぐ。

「・・・・死ねぇッ!」

男の首目掛けて、斧を振る。

―――そこから先は、一瞬の出来事だった。

男が思い切りナイフを引き抜く。

そのまま男は俺の右手の軌道にナイフを持ってくる。

―――勢いがついていた俺の手は、止まらない。

手首と刃が重なり、交差する。

―――俺の手は、胴体と離れた。

「グオオオオオオオオッッッッ!!」

手首を押さえ、叫び声を上げる。

斧は円を描きながら飛んでいき、森の奥へと消えた。

「ぐ、グオォォォォォォ・・・・・」

男に背を向け、走る。

「あと少し・・・あと少しだったってのに・・・・」

後ろから、水を切る音がする。

「・・・冗談じゃねえ・・・・」

ペースを上げる。

後ろからの音も、続けてペースが上がる。

「・・・この野郎ッ!」

振り向きざまに、左手で裏拳を放つ。

――――が、その左手も無情に男に切られる。

「グアアアアアアアアアアアアッッッッ!!」

平衡感覚を失い、倒れる。

「ア・・・グァァァ・・・・・」

顔に、雨が容赦無く降ってくる。

上を見る。

男が、ナイフを振り上げている。

「ゥ・・・・ァァァァ・・・・」

俺には、抵抗する力など――――残っていない。

―――血が流れていたためだろうか。

不意に意識が遠のいていく。

最期に、本当に最期に――――

愛の顔が、見えたような気がした。






野球マスクが、ナイフを刺す。

「ヒ、ヒィィィィッッ!!」

近くの藪から、声がする。

続けて、誰かが走り去る音。

野球マスクが、声のしたほうを振り向く。

水木の顔からナイフを引き抜き、歩き始める。

強化された視力でも、輪郭しか見えない男――――

――――マコンデ(42番)の、逃げた方向へ。





(誰か、誰か助けてくれ!)

必死に逃げる。

目が覚めてみればあたりは真っ暗、持ち物は何も無し。

ふらふらと森の中を彷徨えばマスクを付けた奇人を目撃。

そして今は(たぶん)追われている身。

―――ツいていなかった。

(だ、誰でもいい!誰でもいいんだ!)

気のせいか、後ろから何か聞こえた気がした。

後ろを振り向く。

「――――――!!!!」

――後ろにいたのは、紅く染まったナイフを持ち、自分を追ってきている男の姿だった。

「だ、誰か・・・・!」

前の方にも、うっすらと人影が見えた気がした。

息を大きく吸う。

「――――誰か―――助けてくれぇッッ!!!」

―――思い切り、叫んだ。







「!」

皆の動きが止まる。

「今の声・・・・後ろから聞こえたのか?」

鋼に問い掛ける。

「・・・・そうだな・・・」

鋼は、細い目で声のした方を見続けている。

「小角、何か見えるか?」

一番後ろを歩く小角に尋ねる。

「・・・そーッスねぇ・・・・。
 ぼんやりと・・・誰か走ってくるのが見えるッス・・・・」

「・・・」

ヘルガも後ろを見ている。

気のせいか、落ち着きがないように見える。

――――その時、二度目の声と共に、二つの人影が見えた。

「――――そこの者達ィッ!た・・・・助けてくれェッ!!」

「な、何だ!?」

―――俺の様に反応したのは、5人。

小角と、女子3人。

――――ヘルガと鋼の口から、呟きが漏れる。

「―――野球マスク・・・・!」

「―――マコンデ・・・・!?」

―――雨が、激しくなった気がした。

【43 水木 卓 死亡】
【42 マコンデ かすり傷多数】
【残り14人】