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「――――野球マスク・・・・!」

鋼が呟く。

「あ、あれが・・・例の『野球マスク』・・・・なのか?」

迅雷から話は聞いている。

遺伝子改造により、人にして人に無い存在。

傷は一瞬で回復し、攻撃に怯むことは無い。

この島にも存在する「しあわせ草」の花粉により、さらなる覚醒も可能。

「で、でも・・・・」

俺は、鋼に問い掛ける。

「弱点もあるんだろ?迅雷の話だと・・・」

自己再生能力の―――欠点。

再生は細胞が行っているため、体の一部分が欠けても再生可能。

それは頭でも例外ではない――――。

――――だが。

再生後は細胞が休止状態になるため、しばらくの間行動不能となる。

傷が大きければ大きいほど、休止状態も長くなる。

休止状態時は動けないだけでなく、激しい頭痛にも見舞われる。

この状態時に攻撃を仕掛けても、復活時に回復するので意味は無い。

血液は体内で自動作成されるため、出血多量は有り得ない。

―――野球マスクを止める手段は、一つ。

マスクの―――破壊。

マスクは強力な物質から成り立っているため、通常の攻撃は通用しない。

だが―――参加者たちへの支給武器の中に、二品―――マスクを破壊できる武器がある。

ちなみに―――頭部を胴体と離した場合、マスクは無くなったという扱いとなる。

よって―――純粋に、野球マスクを止めることは不可能となる。

「・・・マスクを破壊できる武器、か・・・」

俺は、手元の扇子を見る。

「・・・流石に、なぁ・・・」

「・・・・一品は・・・俺が知っている」

鋼が、小さく言う。

「マジか?」

「嘘を言ってどうする」

鋼が―――野球マスクを見ながら言う。

「な、何なんだ?」

「・・・・ロケット・ランチャー」

「・・・・はぁ?」

ロケット・ランチャーを、頭の中に思い浮かべる。

「そんな武器、ホントに支給されたのか?」

「今朝の爆音・・・・あれだ」

「・・・まあ、あれは凄かったけどさ」

だからと言って、大神がそんな武器を支給するとは思えない。

「で、どこにあるんだ?」

「・・・大神の部屋だ」

「・・・・・」

ため息を吐く。

「で?どうするんだよ?」

鋼が、こっちを見る。

「アイツを助けるんだろ?さっさと行こうぜ!」

走り出そうとする。

「・・・待て」

ヘルガが、俺の肩を掴む。

「・・・私が行こう」

「おいおい・・・美人を戦わせるわけには行かねー――」

「・・・追われている男は、私の―――部下だ」

「!」

ヘルガが、遠い目をする。

「野球マスク、と言ったか?
 あの男がここに来たのは―――部下の責任だ。
 部下の責任は―――上司である私の責任だ。
・・・私が行く。お前たちは早く逃げろ」

「な、何言ってるッスか?」

小角が割り込んでくる。

「ヘルガさん一人で行かせられないッス。
 俺も・・・俺も行くッス!」

「・・・馬鹿を言うな。
 戦いの経験も無い者が何を言うか」

「経験なんていらないッス!
 ヘルガさん一人より、俺と二人で行ったほうが強いッス!」

「・・・足手まといになるだけだ」

「あー、もういいッス!
 俺は行くッス!
 三鷹さんは西へ向かって欲しいッス!」

そう言うと、腰からナイフを出す。

「ウオオオオオオオッ!!
 福岡ダイエーホークス背番号02、小角雄二!
 ヘルガさんの代わりに成敗するッス!」

野球マスクに向かい、走り出す。

「―――あの馬鹿!」

ヘルガが、後に続き走り出す。

「あ、おい、俺も――――」

走ろうとして、鋼に肩をつかまれる。

「・・・お前は・・・行くな」

「な、何言ってんだ?」

「敵は―――野球マスクだけではない。
 もし俺達が加勢に行って、この場にサンプルが来たらどうする気だ?」

「そ、そりゃ追い返すに決まって―――」

「違う。この場に、だ」

「・・・この場・・・?」

「女子3人がいるこの場に、あいつ等が来てみろ。
 ――――皆殺し、だ」

「う・・・」

「あの時は俺一人で逃げることが出来たが・・・。
 女子3人を守りながら追い返す―――不可能だ」

「ぐ・・・・」

「俺達は・・・先に西へ向かおう。
 悔しいが・・・今はそれしか出来ん・・・・」

鋼が、帽子を目深にかぶる。

「・・・奴等なら・・・大丈夫だ。
・・・行くぞ」

「・・・ああ・・・」

鋼が、歩き出す。

今までの会話を聞いていた女子が、何も言わずそれに続く。

「小角・・・・ヘルガさん・・・・」

俺は、後ろを振り向く。

「・・・・死ぬなよ・・・・!」

二人の姿は、雨に隠され見ることが出来なかった。







「ウオオオオオオオオオッッッ!!」

ユウジが、威勢良く切りかかる。

野球マスクはそれをかわし、ユウジと距離をとる。

「さ、今のうちに逃げるッス!」

マコンデに声をかける。

「ひ、ひぃっ・・・・」

地面を這いずりながら、マコンデが逃げようとする。

「さあ、お前の相手はこの小角ゆぅ――――」

ユウジが、そこまで言った時だった。

野球マスクが、無言でマコンデの背後に回る。

ナイフを、大きく一振りする。

「ギャ―――――!」

マコンデの悲鳴は中途半端に切れ、ごろりと首が胴から外れる。

「く、クソッ!」

ユウジがナイフを振るが、その場にすでに野球マスクはいない。

「―――ユウジ、後ろだッ!」

左足を大きく踏み出し、右足で地を蹴る。

空中で腰を大きく捻り、体をねじる。

そのまま左足を思い切り振る。

「――――ハァッ!」

蹴りは綺麗に横頭に当たり、野球マスクが吹っ飛ぶ。

「ユウジ、無事か!?」

「流石ヘルガさんッス、カッコ良かったッス!」

「軽率な行動はするなと言っただろうが・・・・!」

野球マスクが起き上がる。

「ユウジ、下がっていろ!
・	・・私が相手をする、かかって来い!」

野球マスクが走る。

(相手の武器は短刀。
 リーチは短いが、問題はパワーとスピード・・・。
 銃で一旦退けるしか無さそうだな・・・)

切っ先すれすれでナイフを避けながら、野球マスクの隙を探す。

(・・・・いや・・・・。
 隙なんて、無い・・・。
・・・ならば、多少危険だが・・・・)

銃口を持つ。

引き金から手を離す。

マスク目掛けて、銃を振る。

野球マスクはそれを体を反らして避ける。

(―――好機!)

銃口を握っていた手を離し、銃を手のひらで滑らせる。

引き金のあたりを親指で止め、それを支点に銃を回す。

銃口が野球マスクを捕える。

―――引き金を、引く。






それは、不思議な光景だった。

ヘルガさんが、銃を撃った。

――――いや、撃とうとした。

そこで、野球マスクの手が動いた。

手に持っていたナイフが宙を飛び、ヘルガさんの銃へ。

銃口にしっかりと剣が刺さる。

引き金を引く。

弾と共に、剣が出る。

暴発によって大きく反れた弾は、俺の足元の土を―――。

野球マスクの手元に返ってきた剣は、真っ直ぐヘルガさんの胸を―――。

―――俺は、立ち上がった。

胸に剣を刺したせいで隙が出来た野球マスクの背中に、ナイフを突き立てる。

野球マスクが、雄叫びを上げる。

「行動不能」―――それを見られないようにするためか、野球マスクが逃げて行く。

俺は、ヘルガさんの様子を見る。

胸にはナイフが刺さり、そこから下は真っ赤に染まっている。

暴発した銃を押さえていたためか、銃口は泥に埋まっている。

ナイフを抜こうとして、ヘルガに止められる。

「・・・・ユウジ・・・・ナイフは・・・・抜くな・・・」

「何言ってるッスか!
 血が出てるんスよ!」

「・・・・抜けば・・・もっと・・・・血が出るぞ・・・・」

「え・・・?」

「・・・そんなことも分からんのか・・・・?」

「じゃ、じゃあ・・・・じっとしてるッス。
 今俺が三鷹さんのところまで・・・・」

「・・・・いや・・・・いい・・・・」

「ダメッス。俺が運ぶッス!」

「・・・・ここで・・・・いいんだ・・・・」

「・・・・ヘルガさん・・・・」

「・・・・ユウジ・・・逃げろ・・・・。
 逃げて・・・ミタカやハガネと合流しろ・・・・・」

「ヘルガさんを置いてそんな事出来ないッス!」

「・・・お前は・・・・生きろ・・・ユウジ・・・・。
 生きて・・・・お前の話していた・・・・姉を・・・・大事にしろ・・・・」

「ヘルガさんも生きるッス!俺だけじゃないッス!」

「・・・いいか・・・約束だぞ・・・・・」

「ヘルガさんを置いていく約束なんてしないッス!」

「・・・・・お前といた・・・・この島での・・・・。
 短かったが・・・・楽しかった・・・・・・」

「・・・ヘルガさん・・・・」

「・・・・いいか・・・生きるんだぞ・・・・・。
 ユウジ・・・・・私は・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・」

「・・・ヘルガさん?」

「・・・・・」

「・・・続きを言ってくださいッス・・・ヘルガさん!」

「・・・・・・」

「・・・・う・・・・ううっ・・・・」




俺は、初めて―――――心の底から、泣いた。

雨が――――さらに強くなったような気がした。

【41 ヘルガ 42 マコンデ 死亡】
【8 小角 雄二 打撲】
【49 野球マスク 退却】
【残り12人】