63 「――――野球マスク・・・・!」 鋼が呟く。 「あ、あれが・・・例の『野球マスク』・・・・なのか?」 迅雷から話は聞いている。 遺伝子改造により、人にして人に無い存在。 傷は一瞬で回復し、攻撃に怯むことは無い。 この島にも存在する「しあわせ草」の花粉により、さらなる覚醒も可能。 「で、でも・・・・」 俺は、鋼に問い掛ける。 「弱点もあるんだろ?迅雷の話だと・・・」 自己再生能力の―――欠点。 再生は細胞が行っているため、体の一部分が欠けても再生可能。 それは頭でも例外ではない――――。 ――――だが。 再生後は細胞が休止状態になるため、しばらくの間行動不能となる。 傷が大きければ大きいほど、休止状態も長くなる。 休止状態時は動けないだけでなく、激しい頭痛にも見舞われる。 この状態時に攻撃を仕掛けても、復活時に回復するので意味は無い。 血液は体内で自動作成されるため、出血多量は有り得ない。 ―――野球マスクを止める手段は、一つ。 マスクの―――破壊。 マスクは強力な物質から成り立っているため、通常の攻撃は通用しない。 だが―――参加者たちへの支給武器の中に、二品―――マスクを破壊できる武器がある。 ちなみに―――頭部を胴体と離した場合、マスクは無くなったという扱いとなる。 よって―――純粋に、野球マスクを止めることは不可能となる。 「・・・マスクを破壊できる武器、か・・・」 俺は、手元の扇子を見る。 「・・・流石に、なぁ・・・」 「・・・・一品は・・・俺が知っている」 鋼が、小さく言う。 「マジか?」 「嘘を言ってどうする」 鋼が―――野球マスクを見ながら言う。 「な、何なんだ?」 「・・・・ロケット・ランチャー」 「・・・・はぁ?」 ロケット・ランチャーを、頭の中に思い浮かべる。 「そんな武器、ホントに支給されたのか?」 「今朝の爆音・・・・あれだ」 「・・・まあ、あれは凄かったけどさ」 だからと言って、大神がそんな武器を支給するとは思えない。 「で、どこにあるんだ?」 「・・・大神の部屋だ」 「・・・・・」 ため息を吐く。 「で?どうするんだよ?」 鋼が、こっちを見る。 「アイツを助けるんだろ?さっさと行こうぜ!」 走り出そうとする。 「・・・待て」 ヘルガが、俺の肩を掴む。 「・・・私が行こう」 「おいおい・・・美人を戦わせるわけには行かねー――」 「・・・追われている男は、私の―――部下だ」 「!」 ヘルガが、遠い目をする。 「野球マスク、と言ったか? あの男がここに来たのは―――部下の責任だ。 部下の責任は―――上司である私の責任だ。 ・・・私が行く。お前たちは早く逃げろ」 「な、何言ってるッスか?」 小角が割り込んでくる。 「ヘルガさん一人で行かせられないッス。 俺も・・・俺も行くッス!」 「・・・馬鹿を言うな。 戦いの経験も無い者が何を言うか」 「経験なんていらないッス! ヘルガさん一人より、俺と二人で行ったほうが強いッス!」 「・・・足手まといになるだけだ」 「あー、もういいッス! 俺は行くッス! 三鷹さんは西へ向かって欲しいッス!」 そう言うと、腰からナイフを出す。 「ウオオオオオオオッ!! 福岡ダイエーホークス背番号02、小角雄二! ヘルガさんの代わりに成敗するッス!」 野球マスクに向かい、走り出す。 「―――あの馬鹿!」 ヘルガが、後に続き走り出す。 「あ、おい、俺も――――」 走ろうとして、鋼に肩をつかまれる。 「・・・お前は・・・行くな」 「な、何言ってんだ?」 「敵は―――野球マスクだけではない。 もし俺達が加勢に行って、この場にサンプルが来たらどうする気だ?」 「そ、そりゃ追い返すに決まって―――」 「違う。この場に、だ」 「・・・この場・・・?」 「女子3人がいるこの場に、あいつ等が来てみろ。 ――――皆殺し、だ」 「う・・・」 「あの時は俺一人で逃げることが出来たが・・・。 女子3人を守りながら追い返す―――不可能だ」 「ぐ・・・・」 「俺達は・・・先に西へ向かおう。 悔しいが・・・今はそれしか出来ん・・・・」 鋼が、帽子を目深にかぶる。 「・・・奴等なら・・・大丈夫だ。 ・・・行くぞ」 「・・・ああ・・・」 鋼が、歩き出す。 今までの会話を聞いていた女子が、何も言わずそれに続く。 「小角・・・・ヘルガさん・・・・」 俺は、後ろを振り向く。 「・・・・死ぬなよ・・・・!」 二人の姿は、雨に隠され見ることが出来なかった。 「ウオオオオオオオオオッッッ!!」 ユウジが、威勢良く切りかかる。 野球マスクはそれをかわし、ユウジと距離をとる。 「さ、今のうちに逃げるッス!」 マコンデに声をかける。 「ひ、ひぃっ・・・・」 地面を這いずりながら、マコンデが逃げようとする。 「さあ、お前の相手はこの小角ゆぅ――――」 ユウジが、そこまで言った時だった。 野球マスクが、無言でマコンデの背後に回る。 ナイフを、大きく一振りする。 「ギャ―――――!」 マコンデの悲鳴は中途半端に切れ、ごろりと首が胴から外れる。 「く、クソッ!」 ユウジがナイフを振るが、その場にすでに野球マスクはいない。 「―――ユウジ、後ろだッ!」 左足を大きく踏み出し、右足で地を蹴る。 空中で腰を大きく捻り、体をねじる。 そのまま左足を思い切り振る。 「――――ハァッ!」 蹴りは綺麗に横頭に当たり、野球マスクが吹っ飛ぶ。 「ユウジ、無事か!?」 「流石ヘルガさんッス、カッコ良かったッス!」 「軽率な行動はするなと言っただろうが・・・・!」 野球マスクが起き上がる。 「ユウジ、下がっていろ! ・ ・・私が相手をする、かかって来い!」 野球マスクが走る。 (相手の武器は短刀。 リーチは短いが、問題はパワーとスピード・・・。 銃で一旦退けるしか無さそうだな・・・) 切っ先すれすれでナイフを避けながら、野球マスクの隙を探す。 (・・・・いや・・・・。 隙なんて、無い・・・。 ・・・ならば、多少危険だが・・・・) 銃口を持つ。 引き金から手を離す。 マスク目掛けて、銃を振る。 野球マスクはそれを体を反らして避ける。 (―――好機!) 銃口を握っていた手を離し、銃を手のひらで滑らせる。 引き金のあたりを親指で止め、それを支点に銃を回す。 銃口が野球マスクを捕える。 ―――引き金を、引く。 それは、不思議な光景だった。 ヘルガさんが、銃を撃った。 ――――いや、撃とうとした。 そこで、野球マスクの手が動いた。 手に持っていたナイフが宙を飛び、ヘルガさんの銃へ。 銃口にしっかりと剣が刺さる。 引き金を引く。 弾と共に、剣が出る。 暴発によって大きく反れた弾は、俺の足元の土を―――。 野球マスクの手元に返ってきた剣は、真っ直ぐヘルガさんの胸を―――。 ―――俺は、立ち上がった。 胸に剣を刺したせいで隙が出来た野球マスクの背中に、ナイフを突き立てる。 野球マスクが、雄叫びを上げる。 「行動不能」―――それを見られないようにするためか、野球マスクが逃げて行く。 俺は、ヘルガさんの様子を見る。 胸にはナイフが刺さり、そこから下は真っ赤に染まっている。 暴発した銃を押さえていたためか、銃口は泥に埋まっている。 ナイフを抜こうとして、ヘルガに止められる。 「・・・・ユウジ・・・・ナイフは・・・・抜くな・・・」 「何言ってるッスか! 血が出てるんスよ!」 「・・・・抜けば・・・もっと・・・・血が出るぞ・・・・」 「え・・・?」 「・・・そんなことも分からんのか・・・・?」 「じゃ、じゃあ・・・・じっとしてるッス。 今俺が三鷹さんのところまで・・・・」 「・・・・いや・・・・いい・・・・」 「ダメッス。俺が運ぶッス!」 「・・・・ここで・・・・いいんだ・・・・」 「・・・・ヘルガさん・・・・」 「・・・・ユウジ・・・逃げろ・・・・。 逃げて・・・ミタカやハガネと合流しろ・・・・・」 「ヘルガさんを置いてそんな事出来ないッス!」 「・・・お前は・・・・生きろ・・・ユウジ・・・・。 生きて・・・・お前の話していた・・・・姉を・・・・大事にしろ・・・・」 「ヘルガさんも生きるッス!俺だけじゃないッス!」 「・・・いいか・・・約束だぞ・・・・・」 「ヘルガさんを置いていく約束なんてしないッス!」 「・・・・・お前といた・・・・この島での・・・・。 短かったが・・・・楽しかった・・・・・・」 「・・・ヘルガさん・・・・」 「・・・・いいか・・・生きるんだぞ・・・・・。 ユウジ・・・・・私は・・・・・・・・・。 ・・・・・・・」 「・・・ヘルガさん?」 「・・・・・」 「・・・続きを言ってくださいッス・・・ヘルガさん!」 「・・・・・・」 「・・・・う・・・・ううっ・・・・」 俺は、初めて―――――心の底から、泣いた。 雨が――――さらに強くなったような気がした。 【41 ヘルガ 42 マコンデ 死亡】 【8 小角 雄二 打撲】 【49 野球マスク 退却】 【残り12人】