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雨の中、一人の女が森を走る。

髪や服は濡れ、靴は泥だらけ。

それも気にせず、女は走る。

そして―――洞窟の前で、足を止める。

「――――探しましたよ・・・」

洞窟の中にも、女が一人。

「――――そんなところにいたら、風邪ひくわよ?」

その女は口元に笑みを浮かべながら、外の女に言う。

「――――浅上さん」

外の女―――綾華が、それに答える。

「では・・・失礼します。―――支部長」

洞窟内の女―――智美に向かって。







洞窟の外では、雨が降り続ける。

雨音は大きく、洞窟内にも木霊する。

「久しぶりね・・・」

言葉を発したのは、智美からだった。

「はい・・・。
 5年ぶり・・・ですね」

「そう・・・。
 もう、そんなになるのね・・・・」

智美が、遠い目をする。

「支部長・・・」

「私はもう支部長なんかじゃないわ。
 もっと気軽に――――智美って呼んでもいいのよ?」

綾華が、とんでもないという顔で智美を見る。

「そ、そんな・・・・!
 それに・・・支部長は支部長です」

「・・・そう、か・・・。
・・・あなたは・・・まだ信じていないのね」

智美が、哀れむような目で見る。

「いい、浅上さん・・・・」

「・・・」

「プロペラ団は―――無くなったのよ」

「な・・・・支部長まで・・・・!」

綾華が立ち上がる。

「プロペラ団は無くなってません。
まだ・・・まだ、存在します!」

綾華の声が、洞窟内に響く。

「浅上さん、座って」

智美が、静かに綾華をなだめる。

「・・・すいません・・・」

綾華が、再び地面に座る。

「あなたが・・・プロペラ団が存在していると思っているのは―――」

智美が、少し考えるポーズをとる。

「―――大神のせいかしら?・・・当たってる?」

綾華に、笑いかける。

「・・・・ええ」

綾華が、ゆっくり首を縦に振る。

「フフフ・・・大方、厄介な仕事や危険な仕事をあなたに任せて、あの人は表で大きな顔・・・。
 アメリカにいた時からそうだったわ、あの人は・・・」

智美が、再び遠い目をする。

「・・・・」

「ねえ、浅上さん・・・。
 ――――現実を見なさい。
 プロペラ団は―――無くなったの」

「―――し、しかし――――!」

「私は今、プロペラ団の後片付けをしているの。
 今まで―――今までは、組織内で昇格し、名誉や富を得ることだけを考えていた―――。
 ―――でもね。
 その組織を片付けていて―――思ったの。
 名誉や富―――そんなの、くだらないもの。
 自分の好きなように、自由に生きること――――
 それの面白さが、分かったの。
 あなたは―――昔の私に似てるわ。
 組織という牢屋に、枷を付けられて入れられている・・・。
 私は―――あなたには、もっと色んな世界を見てもらいたいの。
 組織の檻から解放してあげたいの―――」

そこまで言って、智美は綾華を見つめる。

「ねえ、この島から脱出したら――――私と仕事をしない?
 いろいろな国を回りながら、歪んだ社会を戻していくの。
 あなたは優秀だから、私も助かる―――」

「――――それだけですか――――?」

綾華の冷たい声が、洞窟内に響く。

「あなたの言いたいことは―――それだけですか?」

「・・・・ええ」

「正直なところ・・・信じられません」

「・・・・」

「私の憧れていた―――あの頃のあなたとは、まるで別人――――」

綾華が、智美と視線をずらす。

「私は―――このまま生きます。
 あなたが自由に生きると言うなら、私もそうさせてもらいます。
 私の人生は、私が決める。これも自由ですよね?
 私は・・・・自由に生きます」

「・・・・」

「本当なら―――ここで殺すところですが・・・。
 今までお世話になったお礼です。今回は―――見逃します。
 ―――もし次に会ったら・・・殺します」

「・・・」

「・・・失礼します」

綾華が立ち上がり、洞窟の外に出る。

―――智美は、綾華の姿を見ようとはしなかった。






―――迅雷が、帰ってきた。

後ろにいたのは懐かしい人で―――こんな所で、再会を果たした。

―――女子達は、疲れがはっきり見えてきていた。

鋼が洞窟を発見し、そこで一晩明かすことにする。

―――荷物を置き、一日の―――長い一日の、わずかな休みを取る。

――――事が起きたのは―――外藤さんを、明日香ちゃんと会わせようとしたときだった。




「・・・どういうことや!」

外藤さんが、声を荒げる。

「ちゃ、ちょっと外藤さん・・・落ち着いて下さいって」

今にも殴りかかろうとしている外藤さんの肩を掴む。

「だれが落ち着けるかボケェ!」

手を振り解かれ、跳ね飛ばされる。

「こいつが・・・こいつが、みんなの命を奪いよったんや!」

唯ちゃんを指差しながら、怒鳴る。

「こいつの・・・こいつのせいで・・・みんな死んだんや!」

「・・・どういうことだ、外藤」

迅雷が、外藤に尋ねる。

「・・・ワシらが休憩をとっとる時やった・・・。
 突然銃を持って現れて、ワシらを撃った後、逃げよった・・・!
 ワシ以外、みんな死んだ。
 こいつが・・・こいつがいたせいで・・・・!」

鉄パイプを持ち、殴りかかろうとする。

「ちょ、ちょっと待つッス!」

小角が外藤さんを羽交い締めにする。

「離せ、離せェ!
 ワシは・・・あいつらの仇を取るんや!」

「ねえ、ちょっといい・・・?」

唯ちゃんが、ぼんやりと立ち上がる。

「なんや!言い訳なんてしてみろ!
 跡形無くなるまで殴り続けてやるわ、ボケェ!」

「・・・先に私の友達を殺したのは、あなた達なのよ!」

「なんだとコラァ、もう一度言ってみい!」

「何度でも言うわ―――私の、私の大切な人を奪ったのは・・・あなた達なのよ!」

唯ちゃんの目は、大きく見開かれている。

「が、外藤さん・・?」

「ふざけんなや、でまかせ言いよって!
 ワシらは誰も殺してへんし、そんなこと夢にも思っとらん!」

「でまかせ言っているのはあなたでしょ!
 私は見たのよ、あなた達の仲間の一人が、私の友達を・・・殺したところを・・・」

唯ちゃんが、泣き出す。

と言っても目から涙が出ているだけで、目線はしっかりと外藤さんを睨んでいる。

「ゆ、唯ちゃん、その・・・・友達を殺した奴の・・・特徴とかは?」

「はっきり覚えてます・・・・。
 ―――眼鏡をかけた、語尾に『やんす』をつける男よ!」

(・・・・ん?それって・・・・)

頭の中に、一人の人物が浮かぶ。

「ま、まさか・・・・それって・・・・」

「・・・・亀田の野郎ッ!」

外藤さんが、壁を叩く。

「・・・どういうこと?」

「・・・キミが会った人は・・・・多分、外藤さんといた人とは別人なんだ」

「・・・・え?」

「なるほどな・・・・そういうことか・・・・・」

外藤さんが、低い声で呟く。

「亀田め・・・・人を殺して・・・その上罪を逃れよった・・・クソッタレが!」

「つまり・・・・キミは、勘違いを・・・・していたんだ」

「・・・勘違い?」

「外藤さん、その亀田に似てる人の名前は?」

「・・・落田や」

「唯ちゃんの友達を殺したのは・・・多分、亀田の方だ。
 落田と亀田・・・何の関係があるか知らないけど、その二人はすごく似ている。
・・・キミは・・・落田さんを亀田と勘違いしたんだ・・・」

自分の考え―――恐らく真実であろう事を、唯ちゃんに語る。

「そ・・・・んな・・・・・・」

「・・・分かったか?
 お前は・・・何もしてない男を・・・勘違いで殺したんや。
 そして・・・他の連中まで・・・!」

外藤さんが再び殴りかかろうとするのを、小角が再び止める。

「そんな・・・私・・・私は・・・・」

「勘違いとは言え・・・人殺しには変わりあらへん・・・。
 ―――ワシが生きとったのも・・・何かの因果や・・・。
 ワシが・・・ここで・・・・!」

「ダメッス、外藤さん・・・・!」

「離せ小角、ワシは・・・みんなの仇を討つんや!
 離せ、離せェ!」

外藤さんが暴れるのを、小角が止める。

「止めて下さい外藤さん、俺は・・・人が死ぬのを見るのはイヤッス!」

「お前が嫌がったところで関係ないやろ?
 何にもしていないのに死んでいった奴らへ・・・せめて・・・・!」

「ダメッス、俺はヘルガさんが亡くなった時に誓ったッス・・・!
 ―――全員を島から脱出させると誓ったッス!」

「・・・その『全員』に入れなかった奴らの為や!
 ―――いい加減に――――せえッ!」

外藤さんが、小角を跳ね飛ばす。

(け、怪我人じゃねえのかよ・・・!
 ――――く、来るッ!)

扇子を広げ、唯ちゃんの前に立つ。

「―――三鷹、どけェッッ!」

――――キィンッ!

――――鋭い金属音が、洞窟内に響く。

ゆっくりと、上を向く。

俺の頭のすぐそこまできていた鉄パイプは、一本の剣によって止められていた。

「・・・外藤、もう少し落ち着け」

鋼が、ゆっくりと剣を引く。

「・・・なぜ、止める?」

「死んだ者が・・・そんなことをして、喜ぶと思うか?」

「・・・喜ぶ喜ばないの問題やない。
 これは―――ワシ個人の恨み・・・そう言っても、ええ」

「―――お前は、私怨で人殺しをするのか?」

「そうやない。
 だが―――コイツには、仲間を殺され、ワシ自身も殺されかけた。
 コイツは―――ワシの敵や。敵を討つのは―――間違っとるか?」

「・・・・そうだな。当たりだろう」

「だったら―――」

「―――だが、それは敵の話だ。
 ――――今は―――島からの解放を求め、協力し合う仲間だ。
 ―――仲間同士殺し合う。私は間違っていると思うが?」

「く・・・・・だが!」

「―――恨みの連鎖は、哀しいだけだ」

「・・・・」

「―――誰かが止めなければ、いつまでも続く。
 ―――――お前は・・・止められる人間だ」

「・・・・」

辺りが静まる。

その静寂は、鉄パイプが落ちる音で破られる。

「・・・・クソッ!」

外藤さんが地面に寝転がる。

「唯ちゃん・・・大丈夫かい?」

唯ちゃんの顔を覗く。

(顔色が悪いな・・・・無理も無いか)

「唯ちゃん、明日も歩くんだ。
 今日はゆっくり休むんだ。いいね」

唯ちゃんと離れる。

(・・・・・まいったなあ・・・・・)

大きく、ため息を一つ吐く。

「・・・・では、私はそろそろ行くぞ」

迅雷が立ち上がる。

「え、どっか行くんスか?」

「戦力探し、と言ったところか。
・・・まあ、探す人は決まっているんだがな」

木刀だけをもち、洞窟の入り口に立つ。

「夜だし、雨だし・・・。明日にした方がいいッスよ?」

「・・・神経質な奴でな。
 下手に近づくと撃たれるかもしれん。
 雨に紛れて、こっそりとな」

「戦力として期待できるのか?」

「そうだな・・・。
 ――――少なくとも・・・私は必要だと思うぞ」

口元で笑みを作った後、再び包帯を巻く。

「・・・・位置の見当がついているのか?」

「方角ぐらいなら分かる。―――性格から考えて、な」

「・・・・気をつけて下さいよ・・・」

小角が心配そうな目で見る。

「・・・ま、そう簡単にヘマはしない」

木刀の1本を足元に置き、もう1本を背負う。

「・・・・朝になったら、先に進んでいてくれ。
 ――――――じゃあな」

そう言い残して、迅雷は雨の中へと消えた。




―――そして――――12月30日が、終わった。

【3 浅上 綾華 50 四路 智美 決別】
【21 迅雷 隼人 別行動】
【前半と後半は別の洞窟】
【残り12人】