65 今年のモグラーズは、リーグ優勝はならなかったものの好成績を収めたらしい。 ―――私がモグラーズを離れてから1年。 私は時々彼のことを思い出しながら、追手との戦いを続けている。 彼――――コナミの事を。 彼と初めに会ったのは、私がコーチになって4年目の冬。 そのころは全く気に留めない選手だった。 くだらない事故で入院したと聞いていたが、全く興味は無かった。 成績が悪く、態度も悪い。 解雇は、時間の問題だった。 ―――ところが―――事態は急変した。 突然その選手は練習熱心になり、私の元にもよく来るようになった。 成績も急上昇しだし、チーム内での評判も良くなってきていた。 そして―――私は、そんな彼に興味を持った。 彼の前に、占い師として現れる。 当然―――男としてではなく、女の姿で。 それが、彼との二度目の出会い。 自分の容姿に自信は無かった。 だが、彼はよく私の元に来た。 練習をサボるのはコーチとして感心しないが、女としては嬉しい。 その照れ隠しをするように、私はきつめの言葉で話す。 ――いつしか、私達はデートをするようになっていた。 大事な秘密を抱え、それを隠しながら好きな人とデートをする。 胸の奥が痛かった。 いつか、絶対に別れの時は来る。 その時――――私は別れられるだろうか? 彼を、危険に巻き込んでしまわないだろうか? だが、そんな悩みも―――彼の前では、霞んだ。 今は、幸せな時間を―――。 望みは、それだけだった。 彼は、野球のセンスがあった。 基礎のしっかりしていない体にも関わらず、3年で1軍レギュラーになった。 ある日、練習中の彼に「野球は好きか」と尋ねた。 彼は頷き、そのまま練習に戻った。 ―――彼に何かあったと確信したのは、この時だった。 ―――占い師として町に顔を出してから6年目の夏。 私は追手が迫ってきているという情報を耳にした。 彼が街中で忍者の格好をした者を見たらしい。 一般人に姿を見られるということから考えて相手は下忍だろうが、油断は出来なかった。 ―――時間が、少なくなっていた。 ―――そして、事件は起きた。 彼が公園に寄ると、一枚の手裏剣が落ちていた。 彼が遊び心でそれを投げたところ、藪の中に潜んでいた男に当たった。 その手裏剣は毒入りだったため―――男は、死んだ。 そこに現れた私は彼を返すと、久々に―――刀を振るった。 ―――次の日、私の元に彼が来たが、真実は語らなかった。 そして―――私は、彼と別れる決意をした。 私の近くにいれば、必ず危険が伴う。 私は―――コーチとしても、恋人としても――――彼と一緒にいては、いけない。 占い業は店仕舞いし、コーチも今期で辞めることにした。 私は――――彼と別れる道を、選んだ。 孤独を選んだ私を待っていたのは、追手の刃だった。 里では一応五本指に数えられていたため、並の忍者には負けなかった。 戦いは大抵夜に起こるので、人の目を気にすることも無い。 初めの頃は、私の攻勢だった。 ―――だが、シーズンも終わった10月頃。 里が、ついに強行姿勢をとり出した。 流石に抜け忍一人に上忍は使えないのか、数に物を言わせて来た。 戦況は一気に逆転。私は度々危険な目に遭うようになった。 ―――私がそうしている間にモグラーズはリーグ優勝し、日本一への切符を手にした。 日本リーグまでの間、彼はよく私の元に来た。 最近、巨人の小杉のライバルとして有名になって来ており、練習にも磨きがかかっていた。 ―――そんな彼を見るうちに、私の心に変化があった。 ―――3年前、彼は二軍の落ちこぼれ選手だった。 今は球界を盛り上げるスター選手。 ―――彼の秘密は、既に聞いていた。 デートで酔っ払っていた時、あっさりとはいた。 「俺は、小杉と・・・体が入れ替わったんだ・・・」―――と。 実際、その頃の小杉は人が変わったように成績が落ち込み、態度も悪くなったと聞いた。 球界の絶頂から、奈落の底へ。 まさに絶望的な状況だった。 ―――だが、彼はあきらめなかった。 スターだった過去に囚われない。 僅かな可能性である『元に戻る』ことを目指し、上へ上へと昇って行く。 そんな彼を見て―――私は、決心をした。 私は、もう逃げない。 里との決着をつけ、過去を断ち切る。 ―――私は、彼に秘密を話す事にした。 彼を呼び出し、まず練習をする。 ――――だが、そこにも敵はいた。 私は彼を逃げさせ、追手達と向かい合う。 ――――重症を負いながら、私は約束の場所へと向かう。 そして―――私は、全てを話した。 埼川 珠子と迅雷 隼人が同一人物だという事。 私の正体は、里から逃げた抜け忍だという事。 そして――――私の、本当の名前。 全てを話した後、彼に別れを告げた。 ――――そして、私は走り始めた。 ――――私が探しているのは、彼の体の元の持ち主。 (彼とライバルだった小杉・・・・・・) 地面を、一歩一歩踏みしめる。 (――――小杉だけが―――彼を止められるはず) ―――森の中は、どこまでも暗かった。 【残り12人】