67 「・・・鋼、こいつ等が――――」 「・・・・ああ。―――サンプルどもだ」 「おいおい・・・・目がヤバイで、こいつ等・・・」 「野球マスクとは全然違うッスね・・・」 俺たちの目の前には、3人の人間。 どれも帽子の奥で目をぎらつかせ、こっちを睨んでいる。 「・・・・どうするよ・・・」 「・・・俺一人で短時間の間凌ぐことは出来た。 ・・・・勝算は・・・・ある」 「ホントにこんな奴ら相手にしたんか・・・? 人数も3人しかおらへんで・・・・?」 「そうッスよ! いくらサンプルとは言え・・・野球マスクと大して変わらないんスよね・・・・?」 女の子達を背中に隠し、扇子を構える。 (確かに・・・話ではサンプルは4体・・・・) 「・・・三人でこいつ等の相手をする。 ―――外藤、女子達を連れて先に西へ行ってくれ」 「な、なんでワシが!」 「怪我してるじゃないですか。 もしもう一人が待ち伏せしてたら・・・女の子達だけじゃダメですよ」 「そッス! ここは俺たちに任せて、先に行くッス!」 「お、お前ら・・・・」 鋼が銃を構え、小角が剣を構える。 「・・・・分かった。 ・・・先に行っとる。 ――――絶対、追いつけよ!」 外藤さんが背を向けて走り出す。 女の子たちが俺達に声をかけてから、それに続く。 4人の姿が、だんだん小さくなる。 「・・・なーんてカッコつけちゃったけど・・・・」 「・・・・ホントに勝てるんスかねえ・・・?」 「・・・3人だったのが救いだ。 ・・・追い払うだけでもいい。 ―――生き残れ」 三人が等間隔に広がる。 目の前の三人も、一人一人と向かい合う。 (しかし・・・・。 話には聞いていたが、ホントにこんな人たちが・・・。 2人は知らないが、1人は―――モグラーズのコナミ選手じゃないか・・・) 突然、大神の顔が頭に浮かぶ。 (他の人はどうか知らないが、こんな大物選手を・・・改造? 来期からは当然プロなんか・・・無理だよな。 どういう神経してやがる・・・・!) 「――――来るぞッ!」 鋼の声が、頭に響く。 ――――目の前の男が、跳びかかって来た。 ―――野球マスクは、あらゆる面で一般人を超越している。 まず、驚異的な回復力。 細胞が固体単位で再生をするため、実行不可能な状況は無いと言っていい。 当然頭部の再生も可能だが、マスクまで復元することは出来ない。 マスクは彼の構成の象徴でもあり、そこに人間では不可能な様々な能力を集結している。 また、マスクは彼の運動能力をある程度制限している。 これは極度の筋力などにより逆に自身を傷つけるのを防ぐためだ。 マスクの破壊は唯一彼の理性を戻す方法であり、命を奪う手段でもある。 頭部を胴体と離す事は再生能力を止めることは出来るが、彼の動きを止める事は出来ない。 マスクの無い彼はただの殺人鬼であり、それ以外の何でもない。 身体能力の箍が外れるため、殺すことはまず不可能と考えてもいい。 ―――サンプルと野球マスクには、いくつかの違いがある。 一つ目は、サンプルは攻撃的な知性しか残っていないが、野球マスクにはしっかりとした戦闘理性がある。 防御はもちろん、戦術を考えることもできる。 二つ目は、その戦闘能力。 サンプル1人なら、よく鍛錬をした人間でも倒すことが出来る。 だが、野球マスクは違う。 鍛錬をした者であっても、打ち破ることは不可能と考えていい。 もっとも、命を賭けた場合は異なるかもしれないが。 三つ目は、死亡判定。 野球マスクの死亡判定はマスクの決壊である。 サンプルは体の内部にある「再生装置」の破壊となっている。 「再生装置」は脆く、銃弾が当たれば壊れる。 他にも激しく叩く、高熱で焼くなど方法がある。 「再生装置」を仮面に変えたことが成功の秘訣だったのは言うまでも無い。 簡潔に言えばこんなところだ。 ―――――この性能をまとめながら、私は一つの事を考えていた。 この実験の成果を利用する――――。 5体を東京に離してみるのも面白いが、政府が兵器などを使い出すとつまらなくなる。 そこで考えたのが、政府を介入させないで殺し合いをさせることだった。 人同士の醜い争いを見ながら、実験の成果を試す。 この島を利用することができ、何より面白そうだった。 まず、人を集める。 適当に集めても良かったのだが、それでは「人間ドラマ」が無い。 そこで私は、サンプルの関連者を集めることにした。 集めていて驚いたのが、「パワプロ」と言う人物ファイルだった。 前に見た時は「死亡」となっていたのだが、亀田の手によって生き返ったらしい。 私は彼の関係者も集め、50人のファイルを作った。 当然、参加者の中には「パワプロ」と「野球マスク」も入っている。 次に、ルールを考える。 ここまでは簡単だった。 有り得そうなパターンを予想し、対策を考える。 そして、一つの問題に突き当たった。 サンプルたちをどのタイミングで放すか、という事。 初めから放したのでは、「人間ドラマ」が見られない。 途中から放せばいいのだが、後始末が大変面倒臭い。 部下にやらせればいいのだろうが、部下に崇高なものを触らせる気は無い。 ―――そこで考えたのが、私の命を捨てること。 ――――いや、捨てるは言い方が悪い。 捧げる、と言った方が正しい。 ―――この世の中には、いい加減ウンザリしていた。 手に入れたいものは何でも手に入る。 やりたい事など、既に存在しない。 私は、人を創った。 そして、人の命を握ろうとしている。 ―――これ以上、この世にいてやる事など、無い。 サンプルを放す。野球マスクを覚醒させる。 後の事など、私の知ったことではない。 私は、最高のシナリオを書き上げた。 そして―――――物語は、シナリオ通り進む。 【残り12人】