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「あー、ようやく授業終わったのね・・・。
・・・・・さて、今日も野球部でも見に行きますか!」



「亀田君、聞いて欲しいことがあるんだ・・・」

野球部の部室に入ろうとした時、不意にグラウンドからパワプロ君の声が聞こえる。

「・・・ん?」

「何でやんす?」

どうやら、話しているのは亀田君らしい。

「実は、この前から俺に『おっかけ』ができたみたいなんだ・・・」

「―――え!」

突然の事に、思わず声が漏れる。

「ほー、おっかけでやんすか!すごいでやんすねぇ・・・。
 ―――で、相手はどんな子なんでやんすか?」

どうやら、2人には声は聞こえなかったらしい。

「・・・・それが・・・」

パワプロ君がグラウンドの隅を見る。

私も、その目線を追う。

「―――ふふーん」

「・・・・プッ」

思わず吹き出してしまう。

亀田君がパワプロ君の前を去ろうとする。

「あっ、待ってくれよー」

「なんでやんす?
 オイラ、練習があるでやんす」

(男って結構冷たいのね・・・)

亀田君がパワプロ君の前を去り、パワプロ君が1人になる。

(よし、私が元気づけて・・・・ん?)

グラウンドの隅にいた女が、パワプロに近づいてくる。

「ふふーん、ちょっとよろしいですか?」

「え、ああ・・・・・はい」

(ずいぶん悲しそうな「はい」ね)

女が、おずおずと何かを差し出す。

「これ、私がつくったです。食べてください」

「え?」

中身を見たパワプロ君が固まる。

(・・・・何が入ってたのよ・・・・)

あいにく、ここからでは中身が見えない。

「ふふーん」

「う・・・・」

パワプロ君がスプーンを取り、恐る恐ると言った様子でソレをすくう。

(う、お弁当に・・・・カレー?)

意を決した様子で、パワプロ君がそれを口に運ぶ。

(あーあ、ありゃ相当のブツね・・・)

パワプロ君の顔は、ここからでも簡単に読み取れるほど青い。

「ふふーん、どうですか?」

「え、あ、その・・・・おいしい、よ」

(・・・えらくぎこちない「おいしい」ね)

だが、女はそれを気にした様子は無い。

「ふふーん、また作って来るです」

そう言うと、サッと去ってしまった。

「え!?」

パワプロ君の遅い叫びは、みんなが練習をする声に虚しくかき消されていた。






「・・・あー、どうしていつも支部長って話長いのかな・・・。
 早く帰ろ。
 ・・・・ん?」

プロペラ団の講習会の帰り。

偶然通りかかった公園に、二つの人影があった。

(パワプロ君と・・・・あの時の!?)

近くの藪に隠れる。

「あのー、よかったらー、わたしと付き合ってください」

「え!?」

喉まで出かけた声を慌てて抑える。

「ふふーん、早く答えるです」

「え、えーと・・・」

(何やってるのよパワプロ君、キッパリと断っちゃいなさいよ!)

思わず拳を握りしめてしまう。

「と、友達からでよければ・・・・」

(な、何言ってるのよー!)

「ふふーん、ふふーん」

女がよく分からない声を出す。

(そんな危なそうな女、突き放しちゃいなさいよ!)

「明日から毎日学校にいくです。
 お弁当もわたしが作るです。ふふーん」

「あ、ありがとう・・・・」

(・・・・何やってるんだか・・・)

―――次の日、野球部には早くも「キャプテンに彼女できる」の話題が流れていた。






―――ある晴れた日。

私は、公園に来ていた。

「あれ?智美じゃないか?こんなところで何やってるんだ?」

突然、見知った人に声をかけられる。

「あらパワプロ君、こんにちは」

「ふふーん、早くいくです」

パワプロ君の横には、例のあの女。

「ま、まあまあのりか、少しだけだから、さ」

「あら、お邪魔みたいね?」

ちらりと紀香を見ながら言う。

「え、そんなことは・・・」

「――――おーい、智美ちゃーん!」

後ろから亀田君の声が聞こえる。

「え?亀田君・・・?」

「あれパワプロ君、なんでここに・・・・ああ、デートでやんすか」

紀香を見て、うなずく亀田君。

「か、亀田君がどうしてここにいるんだい?」

「オイラは、智美ちゃんとデートでやんす!」

「で、でーと?」

パワプロ君がぽっかりと口をあける。

「あら、驚くような事じゃないでしょ?」

「え・・・?」

「私もあなた達と同じ様に公園でデートをするの。
・・・・何か不思議なことでもある?」

「・・・・い、いえ、何も・・・」

「それじゃそろそろ行きましょうか、亀田君?」

「ガッテンショウチでやんす!
 じゃパワプロ君、部活で会うでやんす」

「あ、ああ・・・・」

呆然とするパワプロ君を尻目に、亀田君と腕を組みその場を過ぎ去る。

―――振り返った時、パワプロ君はまだこっちを見ていた。






―――色々な事が、突然頭に浮かんでくる。

「・・・冗談、だよね?」

私の目の前には、床に横たわり目を瞑ったパワプロ君。

その横には亀田君もいるように見えるが、私の頭の中には入ってこなかった。

「・・・寝てるだけ、寝てるだけ・・・・そうでしょ?」

何度呼びかけても、目は開かない。

「ちょっと、悪ふざけもいい加減に――――」

パワプロ君の体に触れる。

「・・・・・」

冷たい――――。

「そんな・・・・」

彼の体は、冷たく、重い。

「生き返ったのに・・・・また死んだの・・・?」

乾いたパワプロ君の顔に、私の涙が落ちる。

「・・・馬鹿、だよね・・・・・」

涙は止まらない。

「ホントに・・・・ホントに、馬鹿だよね・・・・」

私は、溢れる涙を拭く。

(アジト・・・・大神が実験に使ったのなら、培養液とか、蘇生装置とか・・・あるかもしれない)

パワプロ君を背負い、バッグを手で持つ。

(・・・・絶対に・・・・馬鹿だって、言うから)

山小屋から出て、一旦パワプロ君を下ろす。

(・・・・さようなら、亀田君)

火炎放射器を取り出し、引き金を引く。

(・・・・・私は、パワプロ君が好きだから・・・・)

火炎放射器をしまい、再びパワプロ君を背負う。



―――山小屋の炎が、冷たく感じた。

【50 四路 智美 パワプロを背負いアジトへ】
【残り12人】