68 「あー、ようやく授業終わったのね・・・。 ・・・・・さて、今日も野球部でも見に行きますか!」 「亀田君、聞いて欲しいことがあるんだ・・・」 野球部の部室に入ろうとした時、不意にグラウンドからパワプロ君の声が聞こえる。 「・・・ん?」 「何でやんす?」 どうやら、話しているのは亀田君らしい。 「実は、この前から俺に『おっかけ』ができたみたいなんだ・・・」 「―――え!」 突然の事に、思わず声が漏れる。 「ほー、おっかけでやんすか!すごいでやんすねぇ・・・。 ―――で、相手はどんな子なんでやんすか?」 どうやら、2人には声は聞こえなかったらしい。 「・・・・それが・・・」 パワプロ君がグラウンドの隅を見る。 私も、その目線を追う。 「―――ふふーん」 「・・・・プッ」 思わず吹き出してしまう。 亀田君がパワプロ君の前を去ろうとする。 「あっ、待ってくれよー」 「なんでやんす? オイラ、練習があるでやんす」 (男って結構冷たいのね・・・) 亀田君がパワプロ君の前を去り、パワプロ君が1人になる。 (よし、私が元気づけて・・・・ん?) グラウンドの隅にいた女が、パワプロに近づいてくる。 「ふふーん、ちょっとよろしいですか?」 「え、ああ・・・・・はい」 (ずいぶん悲しそうな「はい」ね) 女が、おずおずと何かを差し出す。 「これ、私がつくったです。食べてください」 「え?」 中身を見たパワプロ君が固まる。 (・・・・何が入ってたのよ・・・・) あいにく、ここからでは中身が見えない。 「ふふーん」 「う・・・・」 パワプロ君がスプーンを取り、恐る恐ると言った様子でソレをすくう。 (う、お弁当に・・・・カレー?) 意を決した様子で、パワプロ君がそれを口に運ぶ。 (あーあ、ありゃ相当のブツね・・・) パワプロ君の顔は、ここからでも簡単に読み取れるほど青い。 「ふふーん、どうですか?」 「え、あ、その・・・・おいしい、よ」 (・・・えらくぎこちない「おいしい」ね) だが、女はそれを気にした様子は無い。 「ふふーん、また作って来るです」 そう言うと、サッと去ってしまった。 「え!?」 パワプロ君の遅い叫びは、みんなが練習をする声に虚しくかき消されていた。 「・・・あー、どうしていつも支部長って話長いのかな・・・。 早く帰ろ。 ・・・・ん?」 プロペラ団の講習会の帰り。 偶然通りかかった公園に、二つの人影があった。 (パワプロ君と・・・・あの時の!?) 近くの藪に隠れる。 「あのー、よかったらー、わたしと付き合ってください」 「え!?」 喉まで出かけた声を慌てて抑える。 「ふふーん、早く答えるです」 「え、えーと・・・」 (何やってるのよパワプロ君、キッパリと断っちゃいなさいよ!) 思わず拳を握りしめてしまう。 「と、友達からでよければ・・・・」 (な、何言ってるのよー!) 「ふふーん、ふふーん」 女がよく分からない声を出す。 (そんな危なそうな女、突き放しちゃいなさいよ!) 「明日から毎日学校にいくです。 お弁当もわたしが作るです。ふふーん」 「あ、ありがとう・・・・」 (・・・・何やってるんだか・・・) ―――次の日、野球部には早くも「キャプテンに彼女できる」の話題が流れていた。 ―――ある晴れた日。 私は、公園に来ていた。 「あれ?智美じゃないか?こんなところで何やってるんだ?」 突然、見知った人に声をかけられる。 「あらパワプロ君、こんにちは」 「ふふーん、早くいくです」 パワプロ君の横には、例のあの女。 「ま、まあまあのりか、少しだけだから、さ」 「あら、お邪魔みたいね?」 ちらりと紀香を見ながら言う。 「え、そんなことは・・・」 「――――おーい、智美ちゃーん!」 後ろから亀田君の声が聞こえる。 「え?亀田君・・・?」 「あれパワプロ君、なんでここに・・・・ああ、デートでやんすか」 紀香を見て、うなずく亀田君。 「か、亀田君がどうしてここにいるんだい?」 「オイラは、智美ちゃんとデートでやんす!」 「で、でーと?」 パワプロ君がぽっかりと口をあける。 「あら、驚くような事じゃないでしょ?」 「え・・・?」 「私もあなた達と同じ様に公園でデートをするの。 ・・・・何か不思議なことでもある?」 「・・・・い、いえ、何も・・・」 「それじゃそろそろ行きましょうか、亀田君?」 「ガッテンショウチでやんす! じゃパワプロ君、部活で会うでやんす」 「あ、ああ・・・・」 呆然とするパワプロ君を尻目に、亀田君と腕を組みその場を過ぎ去る。 ―――振り返った時、パワプロ君はまだこっちを見ていた。 ―――色々な事が、突然頭に浮かんでくる。 「・・・冗談、だよね?」 私の目の前には、床に横たわり目を瞑ったパワプロ君。 その横には亀田君もいるように見えるが、私の頭の中には入ってこなかった。 「・・・寝てるだけ、寝てるだけ・・・・そうでしょ?」 何度呼びかけても、目は開かない。 「ちょっと、悪ふざけもいい加減に――――」 パワプロ君の体に触れる。 「・・・・・」 冷たい――――。 「そんな・・・・」 彼の体は、冷たく、重い。 「生き返ったのに・・・・また死んだの・・・?」 乾いたパワプロ君の顔に、私の涙が落ちる。 「・・・馬鹿、だよね・・・・・」 涙は止まらない。 「ホントに・・・・ホントに、馬鹿だよね・・・・」 私は、溢れる涙を拭く。 (アジト・・・・大神が実験に使ったのなら、培養液とか、蘇生装置とか・・・あるかもしれない) パワプロ君を背負い、バッグを手で持つ。 (・・・・絶対に・・・・馬鹿だって、言うから) 山小屋から出て、一旦パワプロ君を下ろす。 (・・・・さようなら、亀田君) 火炎放射器を取り出し、引き金を引く。 (・・・・・私は、パワプロ君が好きだから・・・・) 火炎放射器をしまい、再びパワプロ君を背負う。 ―――山小屋の炎が、冷たく感じた。 【50 四路 智美 パワプロを背負いアジトへ】 【残り12人】