71 (――――ここは――――どこだ?) 一歩一歩足を踏み出す。 足の痛みは無く、不思議に手の痛みも無い。 ぼんやりとした空間を、ただただ、歩く。 (―――俺は――――寝た。そう――――寝ただけ) 辺りをきょろきょろ見回す。 何も無い。 というより、『辺り』という感覚が無い。 どこまでも続いていきそうな、そんな空間。 そして―――声が聞こえた。 「――――久しぶりだな、三鷹――――」 その声は、懐かしい―――だが、頭の中には鮮明に残っている声だった。 「キャプテン!」 どこからとも無く、キャプテン――――パワプロが姿を現す。 「キャプテン、キミは確か――――」 「・・・ああ。俺は死んでる」 「ならここはどこなんだい? まさか天国とか答えるんじゃないだろうね?」 「・・・いや、これは多分・・・お前の夢の中じゃないか?」 「・・・・ということは、キミはこれが全部僕の空想だと言いたいのかい?」 「いや、俺はホンモノだから」 キャプテンは慌てて顔を振る。 いつも一人称は『俺』なのだが、キャプテンの前では『僕』になる。 「・・・で、キャプテン。 ―――何の用なんだ? まさか出てきただけとか言うんじゃないよな?」 「ああ、そうそう・・・・。 ――――頼みがあるんだ」 「・・・・頼み?」 「ああ。外藤さんとか智美でもいいんだけど・・・先輩に迷惑かけるわけにはいかないしな」 「・・・・何なんだい?」 「――――進藤 明日香――――覚えてるよな?」 「当然だろ。 今もそばにいるぜ」 多少誤解を招くような言葉で言う。 「・・・・なら話は早い。 ――――彼女を――――守ってやってくれ」 「・・・・・」 「知っての通り、明日香は心臓がわるい。 俺が見た様子じゃ、今もそこまで良くなってない。 ――――今、お前がどういう状況にいるかは知っている。 ――――誰が来ようと、明日香だけは―――守ってくれ」 「・・・言われなくても・・・・分かってる」 俺はそっぽを向きながら、答える。 「そうか。 ・・・・安心したよ」 その言葉を言うと、急にキャプテンの体が透けだす。 「きゃ、キャプテン?」 「・・・いつまでも人の夢の中にいるわけにはいかないからね・・・・」 「ど、どこ行くんだよ!」 「・・・・帰るんじゃないかな?俺にも分からない」 「帰るって・・・・どこへ!」 「・・・・・あの世――――」 キャプテンが手を振りながら、姿を消す。 「キャプテン!」 俺はキャプテンのいたところに走っていき、辺りを見回す。 「・・・・・・・」 ―――そこには、既に何も存在しなかった。 「さて、俺が伝えたいことは伝えたな・・・・」 三鷹の夢から帰ってきた俺は、大きく伸びをする。 「あーあ、それにしても・・・何で俺は二回も死んでるんだ・・・・?」 記憶は、復活する時に失ったらしい。 「―――それを言うなら『一回生き返った』と言って欲しいでやんすねえ?」 隣に、殺気に近いものを感じる。 「か、亀田君!」 「ひどいでやんすパワプロ君! 親友であり命の恩人でもあるオイラを殺すとは!サイテーでやんす!」 「な、何を言ってるんだ! キミが明日香を殺そうとしていたから、やむを得ず―――」 「パワプロ君は『幼馴染』と『親友』で、幼馴染を取るでやんすか!」 「・・・・『明日香』と『亀田君』なら明日香を取るけど」 「ムキー!ヒドイでやんす! オイラは許さないでやんす!」 オイラの野望は今回も阻止され・・・頭にくるでやんす!」 「・・・そういえば、『野望』って優勝のことかい?」 「そうでやんす! そのためにオイラはわざわざ危険を冒してまで――――」 「・・・・・」 「・・・・・」 「・・・・・」 「・・・・・」 亀田君を殴る。 「な、何で突然殴るでやんすか!」 「いや、時が止まってたからつい・・・。 ――――そうじゃなくて、続きを言えよ!気になるじゃないか!」 「・・・・パワプロ君には関係無いでやんす」 「・・・・まさか、人を殺したんじゃ・・・・」 「・・・そ、そんな怖いことはしてないでやんす・・・・」 「・・・・ホントかい?」 「・・・・嘘だったでやんす」 亀田君を殴る。 「ゴメンナサイでやんす・・・。 悪気は無かったでやんす・・・・」 「・・・あれ? ならどうして亀田君が天国に・・・・?」 「それは多分・・・・オイラの気が済んでないからでやんす!」 「・・・気が済んでいない?」 「オイラ、パワプロ君と決着つけてないでやんす! そのことが心残りだからでやんす!」 「君との決着は一回つけただろ? ほら、人間にもどる前の・・・・」 「あんなのは無効でやんす! パワプロ君はサイボーグだから卑怯だったでやんす!」 「・・・・ガンダーロボは?」 「悪のロマンだからいいんでやんす」 「・・・・はぁ・・・・・。 ・・・・もういいよ」 「よくないでやんす! さ、決着をつけるでやんす!」 「・・・・何で?」 「野球でやんす!」 亀田君がどこからとも無く野球道具を出す。 「・・・・どっから出したの?」 「オイラには秘密がたくさんあるんでやんす! さ、勝負でやんす!」 「・・・分かったよ」 俺はボールを持ち、亀田君から離れる。 「――――おーい、キャプテン!」 「・・・ん?」 遠くで、聞き覚えのある声がする。 「あ、あれは!・・・でやんす」 「村上君に水原君・・・それに平山君・・・」 「ひさしぶりじゃの、パワプロ」 「全然変わってないみたいだね?」 「あ、亀もいるじゃねーか!」 「は、は、は・・・・・みんな、ここに来たって事は・・・・?」 「どうやら銃で撃たれたみたいだ。今は何とも無いけど・・・」 「おう、酷い目にあったんじゃ。まったく・・・大神、今度会ったらぶん殴っちゃる!」 「まあまあ、過ぎたことは忘れてさあ・・・・。 亀とキャプテンがいいもの持ってんじゃん。 久しぶりにやろうぜ!」 「野球か。久しぶりじゃのう」 「人数が少ないけど・・・まあ何とか出来そうだね」 「よし、じゃあ今度こそ・・・」 俺が再びみんなに背を向けた時、小さく何かが見えた。 「・・・・・あれは・・・・?」 「―――パワプロさん、やっと見つけましたよ!」 「きょ、教祖・・・?」 「ネロとたかゆき、バッタ男もいるでやんす!」 「うー、ネロも野球やる!」 「ヒーローには運動神経も必要バッタ。俺もやるバッタ!」 「おいパワプロ、俺がお前より優れているところを今日こそ見せてやる、覚悟しろ!」 「ピッチャーだったら私がやりますよ! 小説ばかり書いてて体を動かしてなかったんで、丁度いいですよ」 突然人数が増えて、辺りはうるさくなる。 「ははは・・・・みんな来ちゃったのか・・・・」 力無く笑う。 「・・・・・過ぎたことを考えても仕方が無い、か」 空を仰ぎ、深呼吸をする。 「――――よし、やるか!」 俺はボールを教祖に渡し、バッターボックスに向かい走った。 【残り12人】