72 「――――ハァ・・・・・ハァ・・・・・」 息が荒い。 疲れている事は、自分の体がよく知っている。 小角の言ったとおり、私は動き続けだった。 島に着てからの行動を思い出す。 (アジトを探して、進入して・・・山小屋で進藤、森で外藤、そして小杉―――。 今は武器調達のために再び歩き続け、か・・・・) 雪が張っており、走るのは難しい。 (誰も見ていないことだし、火遁の術でも使うか?) 雪は降り止みそうには無い。 (・・・やったところで術の無駄、か) 先祖は術を使えなかったらしいが、私は使える。 術は鍛えればいくらでも使うことが出来るのだが、その時の気力にもよる。 体力・気力共に充実していれば強力な術が出せるが、その反対もある。 (体力も気力も乏しい今の状況では・・・ライターぐらいの炎が出るだけ、か) 雪を踏みしめながら、ゆっくりと歩く。 (・・・?人・・・・か?) 何者かの気配を感じ、目を閉じる。 (・・・あいつ等では無い様だが・・・まだ生き残りがいたか・・・・?) 私の知っている限り、この島で今生きている人は少ない。 放送以来死亡者の正確な確認ができていないが、皆に聞いた限りで生き残っている可能性があるのは、 秋穂・浅上・智林・塚本・水木・野球マスク・四路。 鋼が1人知らない男の死体を見たらしいので、最高でも残り15人。 私達は9人いるので、他は最高で残り6人。 (今の状況で戦闘になるのは避けたい・・・・様子を見るか・・・・) 静かに気配のした方に進む。 (・・・あれは――――プロペラ団の日本支部長・・・・?) 私の目に映ったのは、背に自分より大きい男を背負う1人の女の姿だった。 「・・・ハァ・・・ハァ・・・もう少しだよ、パワプロ君・・・・」 私は、背中のパワプロ君に声をかける。 雪が降ってきたせいか、足が寒い。 踏みしめる歩幅も、初めの頃よりだいぶ小さい。 (・・・やっぱり・・・・男の人って、重いな・・・・) ―――冷静に考えれば、自分はとてもバカな事をしているのかもしれない。 薄い可能性に賭け、わざわざ大変な目に遭ってまで苦労をする。 生き返らなければ、それは無意味な行為。 サンプルや野球マスクが行動している今、自分の身を危険に晒している。 死人は死人と割り切り、さっさと脱出すればいい。 (――――でも・・・・) それまでの考えをはらい、思う。 (私は―――パワプロ君を助けたい) 今までのこと―――今までの自分を、思い出す。 (プロペラ団を倒したのは、パワプロ君。 そして、『プロペラ団』という檻から私を解放してくれたのもパワプロ君。 私は―――何一つしてあげられなかった) 私は今日本を離れ、様々な国でプロペラ団の後始末をしている。 (―――これは、今までの償い。 こんどは―――パワプロ君への・・・お礼) ―――目の前が、突然開ける。 「・・・うわぁ・・・・・・」 目の前に広がるのは、一面の花畑。 「パワプロ君・・・こんな島にも・・・花畑なんてあるんだね・・・」 ―――その時、もう一つのモノが私の視界に入った。 「――――野球マスク・・・・」 パワプロ君を静かに下ろし、火炎放射器を構える。 (・・・火は効かないのよね、確か・・・) サンプルとは決定的にそこが違う。 野球マスクの手にはどこから拾ってきたのかナイフが握られている。 (迂闊に攻撃して取り返しのつかないことになったら嫌だから・・・ここは逃げ、ね) 野球マスクより早く行動し、自分のいる花畑を燃やす。 炎に紛れて私とパワプロ君は逃げる。 ―――野球マスクが、動いた。 「喰らいなさいッ!」 引き金を引く。 銃口から炎が吐き出され、目の前の花が灰になってゆく。 (それでは、退散――――) ―――突然、背中が熱くなる。 身動きがとれない。 (こ、れは・・・・・火が点いたんじゃ、無い・・・・・・) 力無く倒れる私の体。 パワプロ君の姿は、ここからでは見えない。 代わりに見えたのは、野球マスクの足元。 (やきゅう・・・マスクが・・・どうして・・・・炎の向こう側にいるんじゃ・・・・!) 野球マスクは、何故か私にとどめを刺さずに目の前から消える。 (・・・・・まさか・・・・・) ―――私には、思い当たる節があった。 野球マスクを覚醒させる、しあわせ花。 しあわせ花を作っていたのは、この島。 (この花・・・全部・・・・・しあわせ花・・・・) ここに来た野球マスクは、更なるパワーアップをした。 普通の女と特に違いの無い私には、敵う術など、無かった。 (しあわせ花、か・・・・皮肉な名前よね・・・・・) 私が花につけた炎は、間近に迫っていた。 「ぱわぷろ・・・・・くん・・・・」 最期の力を振り絞り、自分の体を動かす。 手でそこらを探り、火炎放射器を手にとる。 「・・・・・・さよう・・・なら・・・・・・」 自分とパワプロ君に向け、炎を撃つ。 ―――体を、炎が包む。 想像していたよりは、全然熱くない。 (こんなんで・・・ホントに死ぬのかな・・・?) 炎の中で、思う。 ―――もしかしたら、その時既に死んでいたのかもしれない。 私の手は、同じ様に炎に包まれたパワプロ君の手をしっかり握っていた。 (・・・・死んだ、か) 私は、その場を後にする。 周りが木と離れていた花畑は、意外と早く鎮火した。 花畑の隅にあった2人の白骨を埋め、私はアジトに向かっていた。 (・・・・・野球マスクは、さらに力を付けた) 花畑とアジトは近かったのか、目の前には洞窟がある。 (私は―――またもや死を見届けるだけだった) ―――ある思いが、私の中を過ぎった。 【50 四路 智美 死亡】 【21 迅雷 隼人 アジトへ】 【残り11人】