73 「――――見えてきたぞ!」 先頭を進む鋼が、声を上げる。 最後尾を進む俺と小角には、まだ見えない。 腕と足の怪我は、酷いものだった。 出血こそないものの、動くだけで激痛が伴う。 寝る前より、確実に酷くなっていた。 「三鷹さん、着いたらしいッスよ!」 小角が声をかけてくる。 「ああ、聞こえてる」 俺の足取りは、遅く、重い。 心の中では、ずっとあの夢のことを考えていた。 (『明日香を―――守ってくれ』か・・・・) もちろん、初めからそうする気だった。 だが、その時の心構えは今とは全く違うものだった。 女の子たちを守り、高感度アップ――――。 だが、キャプテンは違う。 死人の身――――既に高感度も何も無い。 それでも、1人の女の子を守ろうとしている。 (・・・アイツ・・・バカだよな・・・・) キャプテンの顔が、目の前に浮かぶ。 野球バカで、女の子付き合いも下手で、くだらない事であっさりと死んだ男。 ―――それでも、正義感だけは人一倍あった。 (死んでまで・・・・人の心配すんのかよ・・・・・) 明日香ちゃんを見る。 前を見ているため、顔は確認できない。 (・・・・そんなに人の心配がしたいなら・・・・死ぬなよ・・・・!) 思わず足が止まる。 「? どうしました、三鷹さん?」 (・・・・キャプテンがバカだと・・・チームもバカになってくるんだよ・・・!) 「三鷹さ〜ん? どうしたんスかー?」 目の前で、小角が手を振っている。 (・・・俺もバカになってやる・・・・・) 「命に代えても――――明日香ちゃんは、守る」 「お!? 三鷹さん、進藤さんに気があったッスか!」 「・・・は?」 突然話しかけられて、困惑する。 「いやー、確かに可愛いッスからねー。 俺の姉ちゃんほどじゃないッスけど」 「いや、まあ確かにそうだがそれとこれとは話が別というか何と言うか―――」 ――――そこまで言った時、後ろから物音がした。 「き、来たッス!」 「う・・・」 サンプルの内の一体。 さっき退けたはずだが、傷が浅かったのかもしれない。 「―――ここは俺に任せるッス! 三鷹さんは進藤さんと逃げるッス!」 「・・・・あ、ああ」 小角が剣を抜き、サンプルに切りかかる。 「―――明日香ちゃん、俺と一緒に――――――危ない!」 「―――キャアッ!」 突然、もう1人のサンプルが襲撃してくる。 手元には、どこかで拾ってきたのか斧が握られていた。 (―――斧―――。 まさか、水木さん――――!) 「こ、この野郎ッ!」 外藤さんが鉄パイプを振り、サンプルが退く。 (鋼は―――もう一体と格闘中か・・・・! クソ、小杉は・・・何をやってやがる!) 怪我人の外藤さんと俺では、とてもサンプルは倒せない。 「外藤さん、小角か鋼が来るまで凌ぐんだッ!」 「―――任せときッ!」 怪我をしているにも関わらず、軽くパイプを振る。 「みんな、こっち――――」 ―――女の子達を振り返ったときだった。 「――――三鷹、後ろや!」 ―――外藤さんの声。 ―――とっさに扇子に伸びる手。 ―――振り向きざまに扇子を振る。 ―――視界の上の方に見える斧。 ―――斧を止めようと出した扇子。 ―――だが、疲れきった俺に、サンプルの強靭な斧は止められない。 ―――手から離れ、叩きつけられる扇子。 ―――動こうとした時には既に遅く、俺の腕は元から持っていかれる。 「三鷹ァッ!!」 外藤さんの鉄パイプは軽く避けられる。 俺を傷つけたサンプルは、女子たちの元に向かう。 (―――――キャプテン――――――!) 「うおおおおおおおッッ!!」 全身の筋肉が痛む。 それでも、体を前に突き動かす。 サンプルの足を掴み、動きを止める。 足蹴りが、顔に降る。 (惨めな姿だよな・・・・ホント・・・・・・) サンプルが無理矢理手を引き剥がし、こっちを向く。 「ラアアアアアアアッッ!!」 外藤さんがパイプを振る。 「―――――」 サンプルが斧を振る。 ――――カァン!! (―――斧が吹っ飛んでくれればなあ・・・・・) ――――その願いは、儚く、小さなもの。 ―――全身に何かが走るような感覚と共に、俺は意識を失った。 ―――キャプテン、すまないな・・・・。 約束は―――最後までは果たせなかった。 でも―――努力はしたんだぜ? キャプテンに頼まれた時、もう怪我してたんだぜ。 凄い酷い怪我でさ、動くのも辛かったんだ。 それでも―――守ろうとは、したんだ。 ハハハ・・・キャプテンのこと色々馬鹿にしたよな、俺。 「負け犬」とか、「糞蟲」とか。 でも―――俺の方が、馬鹿だったかもな。 死ぬ間際まで、大切なことに気付けなかった。 ―――大丈夫、今は分かってる。 もし生き返ることがあったら―――その時は、はじめから。 ―――そういえば、これも死ぬ間際に思い出したんだけど―――。 鋼と俺って、一回会ってるんだよね。高校の時。 あいつ、全然変わってないよ。キャプテンにも見せたかった・・・・。 ―――じゃ、そろそろ―――俺も、そっちに行くぜ――――。 【45 三鷹 光一 死亡】 【残り11人】