74 「・・・・・ようやくたどり着いたというのに・・・・」 扇子が添えられただけの、粗末な墓。 「・・・・私が・・・・もう少し早く着いていれば・・・・・」 火は鋼が点けたらしく、火葬だけはしたらしい。 「・・・・無念だ・・・・」 静かに黙祷をする。 月の淡い光だけが、私を包んでいた。 ―――――ヘルガさん。 俺、ちゃんと前向いて生きてるッスよね? いつまでも過去に囚われないで――――前、進んでるッスよね? ―――自分では、そう信じてるんス。 それでも―――まだ、完璧には分からないんスよ。 こうやって―――少しでも時間があると、ヘルガさんの事思い出しちゃうッス。 これって―――まだ過去に囚われてるって事ッスよね。 ――――正直、心配なんス。 守るって決めたんス、俺は。 ヘルガさん、三鷹さん、他の皆さんも――――。 でも、何もできないんス。 自分の身を守ることに精一杯で―――他の人を守るだけの力が無いんス。 ――――多分、そろそろ決戦ッス。 さっき退けたッスけど、軽傷を負わせただけッス。 すぐ回復して、また来るッス。 今度は、野球マスクと一緒に。 ―――あ、そうそう。役割分担が決まったんスよ。 野球マスクは、迅雷さんと鋼さん。 三体のサンプルは、俺と外藤さんと小杉さんで一対一ッス。 サンプルの一体は、何者かに殺されたらしいッス。 迅雷さんが、死体を見つけたとか。 ―――俺は、この島で最後の戦いに挑むッス。 ―――ヘルガさんのためにも、三鷹さんのためにも―――俺は、勝つッス。 そして―――勝ったら、俺は―――前を向いて生きたことになるッスよね? 俺、野球バカだからよく分かんないッスけど―――きっとそうだって信じてるッス。 ―――だから―――。 ―――だから、見ていて欲しいッス。 ―――絶対に、勝ってみせるッス。 ―――それが、俺の生きていく証になるなら。 ――――お父さん。 私―――ずっと考えていたの。 何ができるのか、何をするべきなのかを。 でも―――分からなかった。 結局いつも守られてばかり。 みんなに迷惑かけてばかり。 ―――そういえば、お父さんと会ったのも久しぶりだったよね。 前電話してきた時は、びっくりしたよ。 突然かけてきて、「いつものやつ、言ってくれ」だもん。 ―――あの時から、すごい声が遠く聞こえてた。 その後もどこにいるのか分からなくて―――― ―――でも、毎月お金だけは送られてきて――――。 再会したと思ったら、また別れ。 守られるだけで、私は恩返しの一つすらできなかった。 ―――どうして――――? どうして、私が生きているの? どうして、お父さんがここにいないの? ―――私は、どうして――――。 ―――私ね、思うの。 寺岡さん、パワプロ君、三鷹君。 私は、みんなのお陰で生きているの。 皆が守ってくれたお陰で―――生きているの。 私と言う、一つの、ちっちゃな命が。 ―――変だよね。 私の為―――私が生きるために、どうして人が死ぬのかな? 何で、1人のために何人もの人が犠牲になるのかな? 分からない、よね。 少なくとも、私には分からない。 ―――昔ね、テレビで偉そうな人が話しているのを見たの。 「一つの栄光の下には、たくさんの骨が埋まってる」って。 「それは必然であり、悔やむ必要は無い」って。 ―――おかしいよね。 私は、「栄光」なんかじゃない。 むしろ人を守ることができる皆の方が、よっぽど「栄光」だと思う。 皆に守られて、生きる――――。 皆の犠牲の上に成り立つ命――――。 ―――私って、何なのかな? (――――眠れん、な) 俺は腰掛けていたベンチから立ち上がり、伸びをする。 (―――他の奴らは――――。 何だ、皆起きているではないか) 考えてみれば当たり前のことである。 ついさっきまで眠っていたのを叩き起こされ、突然移動。 そんな最中に戦が起こったのだから、眠気も吹っ飛ぶ。 (神木、倉刈、進藤、小角は―――考え事、か? 外藤は―――パイプを振っているか。 小杉は―――銃の点検か? 迅雷――――む? 迅雷の姿が見えんが――――?) ――――三鷹のやられた直後―――外藤も殺されるところだった。 サンプルの後ろから乱入してきた迅雷のお陰で、何とか女子と外藤は助かった。 迅雷が持ってきた武器は、黒服の使っていたマシンガン、5丁。 他に持ってきたのは、ショットガンの弾とどこかで拾ったらしい日本刀。 ロケットランチャーは花粉まみれで使い物にならないらしい。 4丁のマシンガンは迅雷以外の4人に、残りの一つは女子らに渡しておいた。 (――――?どこかで音が聞こえるが――――?) 俺は、微かな音を頼りに歩く。 (――――ほぅ・・・・・。 綺麗な剣捌きだ・・・・) ―――建物の陰で、ひっそりと剣を振る迅雷。 (あの格好、何かと思ったが――――剣裁きはなかなかのようだな) ―――突然、体の前に手を出す。 剣を収め、両手の指をすばやく動かす。 口に片手を持っていき、息を拭くように指で円を作る。 ―――ボッ! 「!」 突然、迅雷の目の前に大量の炎が現れる。 「こ、これは一体―――?」 「――――見ていたのか?」 迅雷がこっちを向き、呆れた様な声を出す。 「む、すまない。 眠れなくてな。少し体を動かしに来たのだが――――」 「―――そうか。 ――――そうだ、少し頼みたいことがあるのだが――――」 迅雷がしゃがみ、足元にあった薪らしい物を取る。 「これを全力で投げて欲しいのだが」 「―――どこにだ?」 何となく予想はついたが、敢えて聞いてみる。 「―――無論、私にだ」 「―――いいのか?」 「全然構わん」 「俺の全力は早いぞ?」 「是非見たいものだ」 俺は数歩下がり、足を適当に開く。 「―――――行くぞ!」 体を捻り、足を上げる。 捻りを戻しながら、胸筋を使い薪を投げる。 迅雷が、鞘に収まっている刀の柄に手を添える。 勢いがついた薪は、真っ直ぐ迅雷に向かって行く。 そしてそれは迅雷の目の前で二つに割れ、迅雷を避けるように地面に落ちる。 「・・・・ほぅ・・・・」 「『風賀流・居合』だ」 迅雷の刀は、鞘に収まったままだ。 「やはり只者では無かったという事か」 「まあ、忍者だからな」 ふざけて言っている様に見えるが、多分本当なのだろう。 「・・・・さっきの炎を吹く奴は『忍術』か?」 「ああ。『風賀流・火遁』だ」 とんでもない事をあっさりと言う。 「先祖は使えなかったのだがな、私は優秀だから使える」 「・・・そうか」 返す言葉が見つからない。 「・・・次が最後だ。そこまで遠くも無い。 今のうちに体を休めておけ」 「絶好のコンディションはある程度体を動かしたほうがいいんだ」 「・・・そうか」 口論をしたら、勝てる気がしない。 ―――迅雷は、月を見ている。 「今宵は・・・いい月だ」 俺も一緒に空を見上げる。 「・・・そうだな。島ということだけあって―――空が綺麗だ」 「―――本来なら―――除夜の鐘でも聞いている時間なんだろうな」 「・・・そうかもな」 ―――迅雷の目には、何とも言い難い感情が浮かんでいた。 「・・・・なあ、お前は――――」 俺が、尋ねようとした時だった。 「――――敵襲ッス!来たッスよ!」 「!」 ―――月が照らす夜。 ―――――一大決戦が、始まろうとしていた。 【深夜】 【残り10人】