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「・・・・・ようやくたどり着いたというのに・・・・」

扇子が添えられただけの、粗末な墓。

「・・・・私が・・・・もう少し早く着いていれば・・・・・」

火は鋼が点けたらしく、火葬だけはしたらしい。

「・・・・無念だ・・・・」

静かに黙祷をする。

月の淡い光だけが、私を包んでいた。






―――――ヘルガさん。

俺、ちゃんと前向いて生きてるッスよね?

いつまでも過去に囚われないで――――前、進んでるッスよね?

―――自分では、そう信じてるんス。

それでも―――まだ、完璧には分からないんスよ。

こうやって―――少しでも時間があると、ヘルガさんの事思い出しちゃうッス。

これって―――まだ過去に囚われてるって事ッスよね。

――――正直、心配なんス。

守るって決めたんス、俺は。

ヘルガさん、三鷹さん、他の皆さんも――――。

でも、何もできないんス。

自分の身を守ることに精一杯で―――他の人を守るだけの力が無いんス。

――――多分、そろそろ決戦ッス。

さっき退けたッスけど、軽傷を負わせただけッス。

すぐ回復して、また来るッス。

今度は、野球マスクと一緒に。

―――あ、そうそう。役割分担が決まったんスよ。

野球マスクは、迅雷さんと鋼さん。

三体のサンプルは、俺と外藤さんと小杉さんで一対一ッス。

サンプルの一体は、何者かに殺されたらしいッス。

迅雷さんが、死体を見つけたとか。

―――俺は、この島で最後の戦いに挑むッス。

―――ヘルガさんのためにも、三鷹さんのためにも―――俺は、勝つッス。

そして―――勝ったら、俺は―――前を向いて生きたことになるッスよね?

俺、野球バカだからよく分かんないッスけど―――きっとそうだって信じてるッス。

―――だから―――。

―――だから、見ていて欲しいッス。

―――絶対に、勝ってみせるッス。

―――それが、俺の生きていく証になるなら。






――――お父さん。

私―――ずっと考えていたの。

何ができるのか、何をするべきなのかを。

でも―――分からなかった。

結局いつも守られてばかり。

みんなに迷惑かけてばかり。

―――そういえば、お父さんと会ったのも久しぶりだったよね。

前電話してきた時は、びっくりしたよ。

突然かけてきて、「いつものやつ、言ってくれ」だもん。

―――あの時から、すごい声が遠く聞こえてた。

その後もどこにいるのか分からなくて――――

―――でも、毎月お金だけは送られてきて――――。

再会したと思ったら、また別れ。

守られるだけで、私は恩返しの一つすらできなかった。

―――どうして――――?

どうして、私が生きているの?

どうして、お父さんがここにいないの?

―――私は、どうして――――。






―――私ね、思うの。

寺岡さん、パワプロ君、三鷹君。

私は、みんなのお陰で生きているの。

皆が守ってくれたお陰で―――生きているの。

私と言う、一つの、ちっちゃな命が。

―――変だよね。

私の為―――私が生きるために、どうして人が死ぬのかな?

何で、1人のために何人もの人が犠牲になるのかな?

分からない、よね。

少なくとも、私には分からない。

―――昔ね、テレビで偉そうな人が話しているのを見たの。

「一つの栄光の下には、たくさんの骨が埋まってる」って。

「それは必然であり、悔やむ必要は無い」って。

―――おかしいよね。

私は、「栄光」なんかじゃない。

むしろ人を守ることができる皆の方が、よっぽど「栄光」だと思う。

皆に守られて、生きる――――。

皆の犠牲の上に成り立つ命――――。

―――私って、何なのかな?






(――――眠れん、な)

俺は腰掛けていたベンチから立ち上がり、伸びをする。

(―――他の奴らは――――。
 何だ、皆起きているではないか)

考えてみれば当たり前のことである。

ついさっきまで眠っていたのを叩き起こされ、突然移動。

そんな最中に戦が起こったのだから、眠気も吹っ飛ぶ。

(神木、倉刈、進藤、小角は―――考え事、か?
 外藤は―――パイプを振っているか。
 小杉は―――銃の点検か?
 迅雷――――む?
 迅雷の姿が見えんが――――?)

――――三鷹のやられた直後―――外藤も殺されるところだった。

サンプルの後ろから乱入してきた迅雷のお陰で、何とか女子と外藤は助かった。

迅雷が持ってきた武器は、黒服の使っていたマシンガン、5丁。

他に持ってきたのは、ショットガンの弾とどこかで拾ったらしい日本刀。

ロケットランチャーは花粉まみれで使い物にならないらしい。

4丁のマシンガンは迅雷以外の4人に、残りの一つは女子らに渡しておいた。

(――――?どこかで音が聞こえるが――――?)

俺は、微かな音を頼りに歩く。

(――――ほぅ・・・・・。
 綺麗な剣捌きだ・・・・)

―――建物の陰で、ひっそりと剣を振る迅雷。

(あの格好、何かと思ったが――――剣裁きはなかなかのようだな)

―――突然、体の前に手を出す。

剣を収め、両手の指をすばやく動かす。

口に片手を持っていき、息を拭くように指で円を作る。

―――ボッ!

「!」

突然、迅雷の目の前に大量の炎が現れる。

「こ、これは一体―――?」

「――――見ていたのか?」

迅雷がこっちを向き、呆れた様な声を出す。

「む、すまない。
 眠れなくてな。少し体を動かしに来たのだが――――」

「―――そうか。
 ――――そうだ、少し頼みたいことがあるのだが――――」

迅雷がしゃがみ、足元にあった薪らしい物を取る。

「これを全力で投げて欲しいのだが」

「―――どこにだ?」

何となく予想はついたが、敢えて聞いてみる。

「―――無論、私にだ」

「―――いいのか?」

「全然構わん」

「俺の全力は早いぞ?」

「是非見たいものだ」

俺は数歩下がり、足を適当に開く。

「―――――行くぞ!」

体を捻り、足を上げる。

捻りを戻しながら、胸筋を使い薪を投げる。

迅雷が、鞘に収まっている刀の柄に手を添える。

勢いがついた薪は、真っ直ぐ迅雷に向かって行く。

そしてそれは迅雷の目の前で二つに割れ、迅雷を避けるように地面に落ちる。

「・・・・ほぅ・・・・」

「『風賀流・居合』だ」

迅雷の刀は、鞘に収まったままだ。

「やはり只者では無かったという事か」

「まあ、忍者だからな」

ふざけて言っている様に見えるが、多分本当なのだろう。

「・・・・さっきの炎を吹く奴は『忍術』か?」

「ああ。『風賀流・火遁』だ」

とんでもない事をあっさりと言う。

「先祖は使えなかったのだがな、私は優秀だから使える」

「・・・そうか」

返す言葉が見つからない。

「・・・次が最後だ。そこまで遠くも無い。
 今のうちに体を休めておけ」

「絶好のコンディションはある程度体を動かしたほうがいいんだ」

「・・・そうか」

口論をしたら、勝てる気がしない。

―――迅雷は、月を見ている。

「今宵は・・・いい月だ」

俺も一緒に空を見上げる。

「・・・そうだな。島ということだけあって―――空が綺麗だ」

「―――本来なら―――除夜の鐘でも聞いている時間なんだろうな」

「・・・そうかもな」

―――迅雷の目には、何とも言い難い感情が浮かんでいた。

「・・・・なあ、お前は――――」

俺が、尋ねようとした時だった。

「――――敵襲ッス!来たッスよ!」

「!」

―――月が照らす夜。

―――――一大決戦が、始まろうとしていた。

【深夜】
【残り10人】