78 「――――あの野球マスクを倒せるなんて、思いませんでしたわ」 「・・・・何の用だ」 俺は、突然の来訪者に問い掛ける。 「そッスよ! 見てたんなら手伝ってくれればいいのに・・・・」 小角が、俺に合わせて呼びかける。 「―――あなた達に要はありませんの」 女が、体の陰から銃を出す。 「・・・・・」 「―――そう。黙っていればいいの。 私が会いに来たのは――――小杉さん。 ――――あなたですわ」 女が、小杉の方を見る。 小杉は、煙草を足で踏み潰している。 「ちょっと話しません? ――――森の中ででも」 銃口は、俺達に向けられたままだった。 「・・・・・・」 小杉が、無言で女に近づく。 「こ、小杉さん、行っちゃダメッスよ! 何されるか分からないッスよ!」 「・・・・お前には関係無いだろ?」 小杉が、冷たく言い放つ。 「う・・・・・。 で、でも・・・・・・!」 俺は、小角を手で制する。 「鋼さん・・・・?」 「・・・行かせてやれ。 ―――何か、あるんだろう」 俺は、小杉の背中を見る。 「・・・・小杉さん・・・・」 小角も俺の隣に立つ。 「――――絶対に、生きて、帰ってきてくださいよ――――!」 ―――小角の声は、木霊となって虚しく響いていた。 「――――どこまで行く気だ? もう充分離れた。 ―――決着、つけようぜ」 小杉が、左手に持っていた銃を右手に移す。 「・・・・みんなと離れるのが怖いのかしら?」 「―――ハッ、そんなんじゃねえよ。 遠いと、帰るのが面倒だからな」 「・・・帰るつもり?」 「・・・・ああ。 俺はこんな島じゃ死なねえ。 いや――――死ねねえ」 「勇ましいのね、格好だけは・・・」 「・・・・・」 小杉が、綾華に一歩近づく。 「――――スタート以来ですわね」 「・・・ああ」 「まさかあなたが生きているなんて・・・夢にも思わなかったわ」 「・・・その言葉、そっくりそのままお前に返してやるよ」 「あら、お生憎。 私はあなたと違って窮地にも慣れてますの」 「・・・フン、運で生き残ったくせに良く言うぜ」 「・・・・フフフ・・・・・」 綾華が笑い出す。 「・・・何がおかしい」 「――――いえ、あなたも変わったと思っただけですわ」 「・・・・」 「以前のあなたなら――――そうね、 後ろから不意打ちとか、話している最中にイライラして発砲・・・・。 こんな感じだったかしらね」 「・・・・フン、我慢してるだけだ。 今も―――撃ちたくてウズウズしている所だ」 「・・・本当にそうかしらね?」 「・・・・・何?」 「もしそうだったら、あなたは仲間なんていなかったはず。 1人で生きて、1人で死ぬ。 ――――一緒に戦う仲間なんていないはずですわ」 「・・・・・」 「あなたを変えたのは―――2人の男。 ――――球界でライバルとして知られていた男と、 幸せ島で起こった反乱の首謀者。 ―――今のあなたは、以前とは全く違う――――」 「・・・・」 「―――フフ、恥ずかしいと思いませんの? 自分の性格を考えて、仲間がお似合いとでもお思い? きっと待っている皆さんも、内心では帰ってこなくていいと思っているかもしれないわよ? 今からでも、裏切りの準備でもしたらどうですの?」 「・・・・もし、そうだったとしても――――」 「!」 小杉がゆっくりと口を開く。 「―――そうだったとしても、俺はあいつ等を裏切らない。 短い間だったとしても、あいつ等は―――仲間だった。 一緒に戦った、仲間だった。 俺は―――仲間を裏切らない」 「・・・・倉刈さん、だったかしら? あの方はどうなんですの? 死体を発見しましたわよ?」 「・・・・アイツは、俺の近くでは幸せにはなれない。 妙に人がいいからな。 きっと――――これで良かったと、俺は思ってる」 「・・・勝手な解釈ですわね?」 「・・・・フン、何とでも言え」 「――――人って、変わるものですわね」 「!」 綾華が、空を見つめる。 2人の頭には、うっすらと雪が積もっている。 「―――私があなたに近づいたのは、ある人からの任務。 そして―――その任務を与えた人は、全くの別人のようになってしまいましたわ」 「・・・・」 「―――『あの頃』の小杉を確保すること。 それが、『あの頃』のあの人からの任務。 例えあの人が変わってしまっても、私の任務は変わらない――――」 「・・・・!」 綾華が、銃をゆっくり持ち上げる。 「―――でも、ターゲットが変わった場合は別・・・。 毒を撃ったあと死んでいなかったのは不覚。 ―――――あなたには、死んでもらいますわ――――」 綾華の銃が、俺の目の前に来る。 俺の銃は、綾華の目の前にある。 「―――殺したいでしょう? 毒を撃って、人生をダメにした私を――――。 ―――決着を、つけましょう――――?」 「――――お前の毒が無ければ、運命は変わっていたかもしれない。 あいつ等もサンプルにならずに済んだ――――。 ――――あいつ等の為にも、俺の為にも――――。 ――――ここで、終わりにする――――」 「あら、いかにもあなたらしい言い訳だこと。 能書きはいいの。 さあ――――始めましょう?」 「―――俺は死なない。 こんな所では――――死ねない――――!」 「「――――これで、終わり―――――」」 ―――島に、二発の銃声が響いた。 「・・・・・俺は、死ぬわけにはいかねえんだよ――――」 俺は、綾華を見ないで話し掛ける。 「・・・・小角のヤローが、『絶対』なんて言いやがったからな・・・・・」 銃を、その場に捨てる。 (これも、もう必要ねえだろうな・・・・多分) ――――俺は、ゆっくりと町へと歩き始めた。 ――――綾華の顔に、雪が積もり始めていた。 【3 浅上 綾華 死亡】 【残り6人】