手を引かれるままに起伏の多い山道を走る。もともと運動に不向きの体は、既に随所が悲鳴を上げていたが、だからと言って足を止めるわけにはいかなかった。進藤明日香は、走るのを止めた瞬間、そのまま地面に倒れこみそうな前傾姿勢で、必死に両足を動かし追跡者から遁走していた。
「はぁっ、はぁっ――」
「も、もっと速く走るでやんす!」
先導する湯田浩一の声が遠い。声だけでなく姿すらも、視界に靄がかかったようにはっきりとしない。返事を返そうと小さく息を吸ったとき、呼吸が乱れ意識が遠のくのを感じた。ふわりと体が宙に浮く感覚。明日香の異常に気付いた湯田が振り向き、咄嗟に支えようとするも、その小さな体躯は差し伸ばされた両腕の間をするりとすり抜け、地面に力無く横たわった。
「あ、れ……わたし……」
言葉を紡ごうにも、脳が熱を帯び痴呆めいた言い回しにしかならない。眼前で湯田が自分の名を呼んでいるのにも関わらず、その声はただのノイズとして認識された。このままでは、いけない。頭では理解しているが、立ち上がろうと四肢に力を込めるも、神経が繋がっていないかのように、ぴくりとも動こうとはしなかった。ならばせめてこの少年だけでもと、明日香は上気した頬の筋肉を動かすと、どうすればいいのか分からず困惑するばかりの湯田に、弱々しく微笑みかけた。
「ごめん……なさい……湯田、くん。あなただけ、でも……」
「そ、そんなことできないでやんす! そうだ、オイラが負ぶって――」
そんなことをすれば、すぐに追跡者に追いつかれてしまう。力なく首を横に振るも、湯田はそれを受け入れようとはせず、明日香の腕を取り肩に回した。
「さ、行くでやんす!」
「――どこに行く気だ、あぁ?」
品の悪い語尾を上げた声が届く。
小さく響く土を踏む音を聞き、湯田はびくりと体を震わせた。
振り返ろうとした横顔、革靴の硬いつま先が蹴り抜く。小さな悲鳴と共に、湯田の体は軽々と吹っ飛んだ。
「追いかけっこは終わりか? ったく、手間取らせやがってよぉ」
竹中昇は湯田に向けて唾を吐き捨てると、明日香の隣に屈み込み長い髪を引っ掴んだ。
「い、た……」
「へぇ……いい女じゃねえか。ガキにはもったいねえよなあ、オイ」
嘗め回すようにまじまじと顔を見つめられ、明日香は視線を逸らした。途端に、竹中は露骨なほどに下種な笑みを浮かべ明日香を囃し立てた。
「ハッ! 反撃する気も無いほど大人しいってことか。いいぜアンタ、俺好みだよ」
「し、進藤さんに近づくなでやんす!」
ニタニタと明日香を見回していた竹中に、震える声で横槍が入る。うつ伏せのまま、口の端から血の筋を垂らし声を張り上げる湯田を、表情を一変させた竹中は一瞥した。少年はサングラスの奥から光る眼光に気圧され低く喉を鳴らすも、ぐっと口を引き締め襲い掛かってくる恐怖の感情に蓋をした。
竹中はしばらくその睨み合いを続けると、やがて鬱蒼とした様子で立ち上がり湯田のそばで屈み込んだ。
頭を鷲掴みにし持ち上げられると、湯田は結んだ口を歪め痛みを露わにした。
「テメェ、ガキの癖に色気づいてんのか?」
「そ、そんなんじゃ――」
「だったら黙ってろ! ウゼェんだよ!」
無防備な横顔を竹中の拳が無慈悲に殴りつける。
大地に勢いよく倒れ伏した湯田の頬は、痛々しいほど真っ赤に腫れ上がっていた。
「やめて……くだ、さい」
弱々しい懇願の声。竹中は、腐りきった暴力的欲求を満たすためにもう一発湯田のボディに蹴りを入れると、再び明日香の傍に座り込みわざとらしく耳元に手をやった。
「何言ってんのか聞こえねえなあ。もっとはっきり言えよ」
「湯田くんに……手を出さないで、ください」
「へぇ、あのガキを庇うってのか。ってことはアンタはどうなってもいいのかい?」
竹中はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、明日香の答えを待った。ただ、彼女の答えがどんなものであったにせよ、聞く耳など持っていなかったが。
どうなってもいい――明日香の脳裏に、遠い日の思い人の姿が思い出される。野球が大好きで、ちっとも色恋沙汰に興味がなさそうだった少年。思いを伝えることもなく、少年は若くして事故で死んでしまった。
翔一くん――あなたのところに、いけるかな。
自分が死ぬことで、竹中の欲求が治まるのであれば。ゆっくりと、首肯。必死に制止の声を張り上げる湯田に、明日香は大丈夫だから、と気丈に微笑みかけた。
「つくづくいい女だな、アンタ。それじゃ、死にたいと思うほど弄ってやるよ」
「し、進藤さん!」
「テメェはそこで見てな! 今からじっくりとこの女を犯す。その後でお前も殺してやる」
楽しげに話す竹中。その中に明日香は、自分の想像しなかった言葉が含まれているのを確かに聞いた。
「い、今。なんて」
「あぁ? アンタを犯して、ガキを殺すんだよ。もちろんアンタも犯した後に殺してやる」
「そんな……湯田くんに、手は出さないんじゃ……」
「そんな約束なんざした覚えはねぇな」
冷たく言い放たれた竹中の言葉を、明日香は絶壁から突き落とされたかのような気分で聞いていた。まだ、湯田を助けられるなら救いがあったのに。さらに、死ぬ瀬戸際になって思い続けてきた操を破られるのだ。絶望が思考を染める。抵抗するだけの気力も、体力も残っていない。明日香は外套を乱暴に引き裂かれる音を聞きながら、ただ湯田が逃げることのみを祈った。
「アンタ、いい顔してんな。そういう表情、中々そそられるんだよな」
「――いい加減にしろよ、テメェっ!!」
ざ、と枝葉の揺れ動く音が鳴る。振り返った竹中の横顔を、首から引っこ抜くかのような重い鉄拳が打ち抜いた。突然現れた男は軽く手首を回すと、倒れこんだ竹中へと続けざまに追撃をかました。立ち上がろうと地面に付いた腕を、倒れ伏しガードががら空きになった腹を、男は慣れた動作で着実に撃砕してゆく。先程まであれほど愉しげに自分たちを蹂躙していた男が無様に転げまわる様を、明日香は呆然と眺めていた。
「て、テメェ――っ!」
懐に突っ込んだ手。銃を抜き出した瞬間、男は高々と足を振り上げ竹中の肘を蹴り抜いた。呻き声を上げ、竹中が手から銃を取り落とす。男はそれを待っていたと言わんばかりに滑り込むと、拾った銃を屈んだまま構え竹中の額にポイントした。
「な、なに――」
「これで、終わりだぜ」
淡々と男が終わりの言葉を継げる。飛び掛ろうとした竹中の額に、小さな赤い穴が開いた。吹き出る血の池に倒れ伏す竹中。入れ替わるように男が立ち上がると、湯田から喚声が上がった。
「あ……こ、小杉選手でやんす!」
「あぁ?」
眉間に皺を寄せつつ、小杉が不機嫌そうに唸る。まるでそのまま湯田までも撃ち抜きかねない気迫に、湯田はしゅんと縮こまると俯いてしまった。未だに呆然とした様子でペタリと地面に座り込んだ明日香へと歩み寄ると、小杉はぶっきらぼうに手を差し出した。
「立てるのか」
「あ……は、はい……」
自力で立とうとするも、まだ少し朦朧とするのか明日香はふらつき座り込む。それを見ていた小杉、ぼりぼりとさも面倒そうに頭を掻き毟ると、強引に明日香の腕を取り引っ張り上げた。
「あ……」
「立てないなら、無理すんな」
小杉は薄く紅潮した頬を隠すようにそっぽを向くと、羽織っていたジャンパーに手を突っ込み歩き始めた。
「だーかーらー。本部の位置はどこかってきいてるんでバッタ!」
「だから、俺は知らないっての! ていうかお前ら、ロボット?」
「ヘッ、これだからガキはよ。どっからどう見ても、俺らがロボットなわけねーだろ!」
――どっからどう見ても、ロボットにしか見えねえよ!
有田修吾は叫びだしそうになる衝動を必死に堪えながら、目の前で騒ぎ立てる二人組を改めて観察してみた。バッタ男と、見るからに――というか、まんまロボット。彼らも元々は旅行目的だったのかと考えると、とても不思議な気分になる。リッチモンドが送ってきた偵察部隊とでも言われた方が、よっぽどしっくり来るような存在だ。そもそも本部を探していると言うのだから、さらに怪しい。思い切って、尋ねてみることにした。
「お前ら、本部を見つけてどうする気なんだよ」
「決まってるだろ。ジジイを見つけてとっとと帰んだよ」
「当たり前でバッタ!」
何を聞いているんだ、という風に受け答えする二人。有田は、会話をするだけでどっと疲労が増したかのような錯覚に陥った。この二人とは、とっとと別れるべきだ。そう思いつつ、最後の質問をする。
「ジジイって、リッチモンドのことか?」
「んなわけねーだろ! 黒野のジジイだよ! あんなキチガイジジイと一緒にいられっか!」
「このガキ、大丈夫でバッタか?」
頭をつつき、心配そうな目で顔を覗き込んでくるボボ。どうやら根本的に、この二人とは会話が成り立たないらしい。こんなところで無駄な時間を消費するくらいなら、とっとと七瀬や東など、知り合いたちと合流すべきだろう。有田はそう判断すると、大きく溜息をつき二人に別れを告げた。
「じゃあ俺、そろそろ行くから。まあ、お互い死なないようにしようぜ」
「おう、達者でなガキ!」
「気をしっかりと持つでバッタよ!」
思いのほか、別れの挨拶は成立してしまった。ふざけた二人組だったが、言葉通り、生き残ればいいなと、有田は心からそう願った。まだ背後では、二人が賑やかに歓談する声が聞こえる。殺し合いという極限状況に置かれているのに、呑気な二人だ――思わず、くすりと微笑みかけた、その瞬間。
二発の銃声が辺りの空気を揺るがし、二人の会話は、そこでぷっつりと途切れた。何事かと背後を振り向いた、少年の喉下に、木の枝の破片がぷすりと突き刺さる。微弱な痛みを覚え、指で破片を摘み抜く。だが、月光にさらされたそれは、木の破片などではなかった。
「なんだ、これ。吹き矢――?」
お祭りなどで見る、針のような吹き矢。どこからこんなものが飛んできたのかと、周囲に首を巡らしていると、段々と体から力が抜けていくのを感じた。脱力感はあっという間につま先まで達し、有田はその場にへたり込んだ。
「あ、あれ――ど、どう っ?」
舌が痺れ、満足に言葉を話せなくなっている。自分に何が起こったのか、どうしてこうなってしまったのか、さっぱり理解できなかった。そんな有田の目の前に、二人の女性が、闇夜から浮き出るように気配無く現れ姿を見せる。
「あ、 た 」
「支部長、この通りです。即効性で、ワクチンでもない限りは確実に数分で死に至ります」
「うん、上出来ね。まあ問題は、リッチモンドに、針が刺さるだけの皮膚が残ってるかだけど」
衰弱してゆく有田を他所に、支部長と呼ばれた女は満足げに頷いた。
「しかし、良かったのですか支部長」
「え? 何が?」
「毒のテストはともかくとして、弾まで無駄遣いする必要は無かったのでは? どうせ参加者たちは殺し合い、こちらが何をしなくとも、勝手に自滅してゆくと思うのですが」
「あー、そういうこと。――そりゃもしかしたら、彼に手出しをするかもしれないからね」
「すみません支部長。あまり聞き取れなかったのですが、何と仰ったのです?」
「んーん、何も。それじゃそろそろ行こっか。本部、こっちの方向でしょ?」
「はい、恐らく。二時間もあれば辿り着けるかと」
二人はまるで何事も無かったかのように会話をしながら、その場から立ち去ってゆく。
後には、物言わぬ少年の骸が、たった一つ残されただけだった。
様々な感情が、胸の中で渦巻いている。殺し合いの宣告、ヒナコの死、翔一の変貌。短時間で起きた出来事が多すぎる。お世辞にも精巧とは言えない造りである、猛の脳はパンク寸前だった。頭をバリバリと音が鳴るほどに掻き毟り唸っていると、背後から声がかけられる。
「なんだよ、シラミでもいるのか?」
スタンの衝撃から立ち直った開司が、気の無い声を上げる。この男も、猛を悩ませる要因の一つだ。突然現れ、翔一を殺害しようとした男。猛、木の根元に座り込み銃の点検をしている開司の前に立ち見下ろした。じろりと、目線だけが返ってくる。怯むことなく、猛は口を開いた。
「アンタ、なんであんなことしたんだよ」
「あんなこと、じゃあ分かんねェよ」
「なんで、翔一さんに銃を向けたりしたんだ!」
猛は声を荒げると、拳を強く木の幹に叩きつける。揺れた木から、はらはらと舞い落ちてくる木の葉が、目の前を掠めてゆく。それでも、強い視線は崩さなかった。開司、しばらく黙ったまま銃を見つめると、それを猛の胸元へと向けた。
「な――!」
「お前さ、バカだろ」
研ぎ澄まされた双眸が、真っ直ぐに猛に向けられる。殺意の込められた凶悪な思念に、猛はついと目線を外した。銃を向けられるだけで、足が震え逃げたしたくなる。だが、足から根が生えたように、その場から動くこともできない。冷や汗が流れ、顎を伝いぽたりと地面に垂れる。開司、銃を手の中で反転させると、再び整備の作業に戻った。その瞬間、金縛りのように固まっていた猛の体が解放される。荒い呼吸、全身が酷く興奮していた。
「殺し合い、なんだぜ。まあ俺は、自分から殺し合いをする気なんてさらさら無い。でもな、だからって易々と殺されるわけにもいかねェんだよ。相手がその気なら、俺は俺が死ぬ前に、相手の息の根を止める。それだけだ。どうだ、バカでも分かる簡単な説明だろ」
嘲笑を浮かべつつ開司は立ち上がると、整備した銃をベルトに挟み、腰を捻り背骨を小気味よく鳴らす。
正論だった。相手が自分を殺そうとするのであれば、反撃は自己防衛となり正当化される。少なくとも、手当たり次第に参加者たちを殺害しようとする翔一よりは。
だが、それは――
「納得いかねェ、って顔だな」
「いかない――いくわけが無いだろ。そんなの結局、自分から殺し合いをする奴と全然変わらない!」
それは、現状から逃げているだけではないのか。
強要された殺し合い。参加者たちの歩む道は、たった一本の細い縄の上だ。ひょんなことで落ちてしまえば、その下に広がる暗闇からは、二度と這い上がることはできない。だが、だからと言って、作られた道に盲目的に従うだけでは、あるかもしれない抜け道すらも見落としてしまうのではないか。
「――言ってくれるじゃん」
怒気を伴う、細く絞られた開司の瞳が向けられる。口ぶりこそ軽い調子だったが、その相貌は一切笑っていない。相手をその場に射止めるような視線を、猛は精一杯の勇気を奮い起こし正面から睨みつける。
ここで負けたら、希望を失ってしまう!
「聞いてなかったのかよ、少年。今は、殺し合いの最中なんだよ。こうやって、俺とお前が向き合って会話をしていること自体、螺子がぶっ飛んでるとしか思えない異常な行為だ。俺はいつでもお前を殺せる。それでも俺は、お前を生かしてるんだ。殺し合いを進んでする奴と、どこが一緒だって?」
「一緒だろ。そんなのただの欺瞞だ。人殺しをする、根本の部分が全く同じだ!」
「だからさ、聞いてなかったのか? 俺の場合は自己防衛だぜ」
「そんな、そんなことで――、人殺しが正当化されるはずは無い!」
拳を力一杯握り締めながら、一歩前へ踏み出す。叫んだ。胸の内に閊える感情を、全て吐き出した。開司だけにではなく、翔一にも向けられた言葉。どうしてあの時、すぐに今の様に言えなかったのか。空になった心に、遣る瀬無さが積もってゆく。
「ま、偉そうに言ってくれるじゃないの。じゃ、聞くけど。少年はさ、自分が殺されそうになったらどうするわけ?」
「そ、それは――」
「大人しく殺されるか、尻尾巻いて逃げ出すか。ま、ビビリの少年にはぴったりかもねえ」
神経を逆撫でする開司の物言い。飛び掛り胸倉を掴みたくなる衝動、必死に抑え付けた。
「どっちにしても、いずれお前は死ぬよ。この薄暗い島で、たった一人で、苦しみながら、何の意味も無く死んでゆく。守りたいものも、守れず――。俺は、そんなのは御免だ」
薄暗がりの中で、開司の顔に、陰が差したかのように見えた。
「俺には、守りたいものがある。お前が何と言おうと、俺は約束を守るために戦う」
この男は、翔一に酷似している。猛は、話してゆくうちひしひしとそう感じていた。
だが、それなら尚更、猛は言い続けなくてはならない。
「そんな方法で守った約束、誰も喜ばない」
「フン――お前に、何が分かる」
「そこまでにするでやんすよ、二人とも!」
周囲の偵察から戻った落田が、間へ割って入り二人を引き離す。胸を押されよろめきながらも、猛は開司から視線を反らそうとはしなかった。開司、見ぬ振りをして落田へといつもの口調で話しかけた。
「お疲れ様、落田君。で、どうだった?」
「どうだったもこうだったもないでやんす! 二人の声がメチャクチャ大きくて、どこにいても聞こえたでやんすよ! また狙われたどうする気でやんすか!?」
「悪い悪い。で? 本部とか見つかった?」
ちっとも悪びれる様子無く尋ねる開司に、落田は力無く首を振る。
「全然でやんす。そもそも暗くて、先なんて満足に見えないでやんすからね。あ、でも――」
「でも?」
「本部じゃなくて、安全な仲間なら見つけたでやんすよ」
「は? な、仲間?」
「――七瀬君、無事だったか!」
うろたえの声を上げる開司をよそに、安堵の息をつき胸を撫で下ろす男が姿を現す。猛、大きく目を見開き驚くと、ぱっと表情を輝かせ現れた先輩へと駆けて行った。
「東さん!」
「早いうちに会えてよかった。それも、お互い怪我一つ無いようだしね」
にこりと微笑み、様になるウインクをする東。目に見て分かるほど青年の顔色が良くなるのを、落田は温かい目で見ていたが、不意にその頬をぐいと引っ張られよろけた。目の前に、邪悪に笑う開司の顔が大写しになる。
「い、痛いでやんす!」
「落田君? なんでアイツを連れて来たのか、説明してくれるよね?」
「東君は、知り合いを探してたんでやんすよ! その時に、アンタ等の大声が聞こえたんでやんす! だから、間接的に彼を呼んだのは開司君でやんすよ!」
落田は開司の腕を両手で剥がすと、赤く腫れた頬を涙目で擦る。が、すぐに立ち直ると、ちらりと東たちを振り返り、開司に耳打ちの合図を出した。眉を吊り上げながらも、開司は耳元に手をやる。
「実は、漁火君を見つけたでやんす」
「漁火君ね。そういや、彼も来てたんだっけ。それが?」
「遠めに見ただけなんでやんすけど――。ちょっと、様子がおかしかったのでやんす」
落田の声、さらにトーンが下がる。僅かな胸のざわめきを、開司は感じた。
「ふらふらと歩いてて、ぶつぶつ何か言ってて……怖かったから、声はかけなかったでやんす」
漁火は狂気にやられた。情報は少ないが、それだけですぐに分かった。もしこれが本当ならば、発火能力を自由に操ることのできる漁火は、この島で最悪の殺人鬼になる。
「くそ……三矢と同士討ちでもしてくれりゃ楽なんだけどな」
「――どうするでやんす? オイラ的には、君子危うきに近寄らず的な心境でやんすけど」
「決まってるだろ。様子を見に行くよ。もし危険なようだったら、排除しなくちゃいけない」
さらりとそう言い退けると、足元のデイバックを持ち上げる。東と話し込んでいた猛が、声を荒げる。
「おい、どこ行くんだよ!」
「お前のいないとこだよ、少年」
「――んだと!」
「そういうわけで、その少年の面倒は頼んでもいいかな?」
いきり立つ猛をさらりと無視すると、開司はそれを宥める東へと尋ねる。東、頼もしげに頷くと、「もちろん」と快諾した。再び、猛へと向き直る。
「じゃあな、少年。精々小便チビんないようにしろよ」
「るせぇ! とっととどっか行きやがれ!」
「言われなくてもね」
すかした笑みを残し、開司は片手を上げ走り去ってゆく。落田も二人に別れを告げると、その後に続いた。
【05 有田修吾 死亡】
【36 たかゆき 死亡】
【38 竹中昇 死亡】
【39 立花ボボ 死亡】
【残り63人】